奈良時代に飼育されるようになったとされる小石丸の生糸は、正倉院の宝物の復元や歴史的に貴重な絹織物の修理などに用いられている。
「『養蚕業の奨励』は『ハンセン病の予防と救済』や『灯台職員への激励』と並んで、貞明皇后の三大事業とも言われていました。ハンセン病をめぐる差別の被害回復や補償はまだまだ十分とは言えないはずですが、国が続けた患者の隔離政策をめぐる家族への損害賠償訴訟で安倍晋三首相が昨年7月、国の責任を認めて控訴を見送ったことで、大きく一歩前進したとは言えます。また、灯台は海上輸送に欠かせない大切な航路標識であることに変わりはありませんが、GPS(全地球測位システム)などの発達により、重要性は昔ほどではないでしょう。
一方で、正倉院の宝物の復元や絹織物の修理に寄与する小石丸の飼育は、日本の伝統文化を守るという意味において、現在もその重要性は何も変わりはありません。皇后陛下が上皇后陛下のご意志を継いでハンセン病患者に寄り添い、灯台で働く人たちを励まされていくことは間違いありませんが、皇后陛下が御養蚕を心を込めて継承されていくことは、やはり極めて意義深いことと言えます。皇后陛下もそのことをよくご存じだからこそ、意欲的なのだと思います」(同前)
2年前の「蚕の継承」が赤十字大会の「ご紹介」につながる
小石丸は皇太子妃時代の貞明皇后が、当時の東京蚕業講習所(現在の東京農工大学工学部)に行啓した際に献上されたことから御養蚕での飼育が始まったとされている。貞明皇后の三大事業は連綿と令和の時代に引き継がれていると言えよう。
「皇后陛下は一昨年の5月13日、御養蚕所で上皇后陛下に『触ってもよろしいでしょうか』と許しを請うたうえで蚕を手に取られています。次期皇后として上皇后陛下から御養蚕を継承するべく、教えを請うたわけです。その数日後には日本赤十字社の名誉副総裁として15年ぶりに全国赤十字大会に出席されました。
その際、名誉総裁だった上皇后陛下が壇上で皇后陛下を紹介するような仕草をされたことが、皇后職の継承を象徴する出来事として話題を呼びました。現在、『V字回復』などとも言われる皇后陛下の活発なご活動ぶりは、ここをスタート地点にして前に進んだものという感じを受けます」(同前)