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“藤井聡太フィーバー”で逆風 開き直った渡辺明棋聖にある光景を思い出した

“藤井聡太フィーバー”で逆風 開き直った渡辺明棋聖にある光景を思い出した

かつてタイトル戦で語っていた力強さに溢れた言葉とは

2020/07/10
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こういう負かされ方はきつい

 改めて、今回の棋聖戦を考えてみる。 

 まず立場としては名実ともに藤井が挑戦者であることは疑いの余地がない。そして五番勝負開始時点では藤井の1勝0敗という対戦成績だったが、渡辺は「若手がタイトル戦に出てくるまでは年長者が勝ち越しているのが自然。以前より力をつけているからこそタイトル戦に出てくるわけで、挑戦された時点で負け越していたら、年上は勝てません」と語ったことがある。

挑戦者の藤井聡太七段 代表撮影:日本将棋連盟

 そうなると出だしの2連敗もある意味では想定の範囲だったかもしれないが、その内容については第1、2局ともに藤井が王者を圧倒しての勝利だった。「渡辺棋聖の敗因がわからない」という声も多数聞かれた。こういう負かされ方はきつい。どこに反省点を求めるべきかわからないからである。

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 そして、(少なくとも成績上では)渡辺が好調状態でこの防衛戦を迎えたのも大きかった。直前に王将と棋王を防衛し名人にも挑戦を決めた、現在最強の棋士と言っても文句がつけられない存在が、手ひどく負かされたのである。

棋聖戦第2局は、渡辺棋聖にとっては手痛い敗北となった 代表撮影:日本将棋連盟

やはり手番の優位は無視できない

「もう藤井には誰も勝てないんじゃないか」という空気まで作られたようにも思えるが、それを渡辺は第3局で見事に払拭した。「研究がうまくいっただけで、手ごたえを感じる内容ではない」と振り返っているが、研究を生かしての作戦勝ちを本当の勝利に結びつけられるのは真の実力があってこそである。

 そして第4局は渡辺の先手番だ。やはり手番の優位は無視できない。特に王位戦七番勝負を並行して戦っている藤井は、作戦をどこまで用意できるかということに懸念がある。そして王位戦第2局は棋聖戦第4局の直前に行われるというハードスケジュールも気になる。

藤井七段は、木村一基王位との王位戦七番勝負も並行して戦っている 代表撮影:日本将棋連盟

 世相上の問題で、現在行われているタイトル戦の取材は相当に制限が掛かっている。報道控室に置かれているモニターから渡辺の「開き直って」という言葉が聞こえた時、筆者は2008年の竜王戦第4局の打ち上げを思い出していた。直接会って言葉を聞くわけにもいかないが、「第5局まで無駄足を踏んでください」と言われそうな気がしている(前回の竜王戦も含めて、大一番の現地にいることが無駄足だとはまったく思わないが)。

 そしてこの両者の勝負を一局でも多く見たいというのは、将棋ファンの総意だろう。

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