逆転人事に「官邸の人事介入」の声
この数年前から、警察庁長官、警視総監の後任選びをはじめ、不可解な人事が再三に亘って強行され、この時も、「露骨なまでの官邸への忠誠心を見せた」(官邸スタッフ)と、当時の栗生長官を指弾する声が私の耳にも届くほどであった。
その結果、オリンピック警備のトップリーダー「不在」への危機感が警察庁内部にも日増しに募り、翌18年の夏の定期異動で齋藤氏を神奈川県警から警察庁警備局長に呼び戻す人事案が練られたが、直前になって、あろうことか警視庁副総監へ事実上“降格”された。
この逆転人事の裏には、再び「安倍首相官邸の懲りない人事介入があった」(警察庁関係者)という。5年前に同庁警備課長から官邸入りした大石吉彦首相秘書官(61年)を「警備局長として処遇しろ」というもので、事実翌19年1月この情実人事が罷り通ったのである。
「令和」の日本警察再構築へ
幸い齋藤氏が今年1月に総監に昇格し、オリンピック警備の総指揮者に辛うじて間に合った格好だが、この間の2018年4月には、東京五輪・オリンピック組織委員会で、米村敏朗CSO(49年)を内閣危機管理監時代から補佐していた今井勝典警備局長(平元)が急死。一時は過労死が取り沙汰された。今井氏は、米村、齋藤両氏らと同様に、杉田官房副長官をはじめとする警備警察主流派を形成してきた警視庁警備第1課長人脈に連なる、次世代のエースと期待されていただけに、警備警察にとってその損失は計り知れないだろう。
そして先述の中村氏はその後官房長、次長と確実に出世コースを歩み、今や次期警察庁長官を、また大石警備局長もオリンピック問題が決着すれば、齋藤総監の後任を踏み台にして、内閣危機管理監として官邸へ凱旋するというサクセスストーリーを描けるポジションに立っている。
ただそんな彼らを跋扈させた安倍内閣の退場を知ってか知らずか、政治との距離感を見失った黒川東京高検検事長問題に揺れた法務・検察を他山の石に、今夏政治からの独立派、かつ理論派の松本長官は来年のオリンピック開催・中止の両面作戦を取りながら、どうやら“オリンピック大警備”後の「平和」と「安全」、即ち2020年代の「令和」の日本警察再構築へ先手を打ったと言えるかもしれない。