ではどうやって使うか?
坪田 小論文対策に取り組む前に、そもそも大学は小論文で受験生の何を見ているかを知っておいてほしいんですね。これがわかっていないと、小論文対策にどんな勉強が有効かを見失います。
小論文では、ずばり受験生が今の世の中の出来事にどれぐらい関心を寄せていて、どれぐらい深く理解しているかを見ています。小論文は小手先の対策では書けませんからね。
たとえば、2014年は集団的自衛権行使容認の閣議決定がなされましたが、そのことを論じるなら、まず「集団的自衛権」が何なのかを正確に理解していなければ無理です。「集団的自衛権」の定義にはじまって、なぜ今までそれが認められていなくて、今なぜ容認に踏み切ったのかという戦後日本の歴史的背景が頭に入っていなければ書けないでしょう。
小論文が刻々と変化していく現実への関心や理解を見ているとすれば、英語、数学、国語、理科、社会の5科目は、人類普遍の叡智の基礎をどれぐらい自分のものにしているかを測っているといえるでしょう。
次に心得てほしいのが、「小論文とは何か」です。小論文は今まで学校でよく書かされてきた作文とは違います。作文は、「自分の体験や意見、考えなどを書く」もの。小論文は、「自分の意見とそれに対する反論を書き、その反論を論破して、自分の意見が正しいと主張する文章」のことです。「自分の意見に対して想定される反論」を用意するか否かが両者の違いですね。
あるテーマについて、自分はAだと考える。一方に、Bだと考える人たちがいる。小論文では、対比する2つの考え方があって、さまざまな事実やデータから考えたときに、自分の意見であるAが正しいと立証しなければなりません。僕は「思考のボクシング」だと子どもたちに伝えています。「対戦相手を倒して、自分の結論の正しさを示すのが小論文だと考えると、シンプルだよ」と。
実際の入試を見てみましょう。たとえば、2014年の出題例を見ると――、東大の後期・文科、理科I・II類は、佐藤純一「健康言説を解体する」を読んで、問1は著者の主張をまとめる。問2は自分の考えを説明する。どちらも500字以内です。
京大の前期・経済学部は、世界的な経済学者フリードマンとホジソンが書いたA、B2つの課題文を読み、問1は800字以内でAの説明。問2は400字以内でBの説明。問3は、Aに対するBの批判を踏まえて、Aの主張を1600字以内で擁護する、というもの。
慶應の文学部は、柳田邦男『言葉が立ち上がる時』を読んで、設問Iは300字から360字で内容の要約、設問IIは320字から400字で自分の考えを述べる、というものでした。
長い課題文を読ませてから要約させ、そのあとに意見や反論を書かせるタイプが多いんです。
なぜ、「意見」や「反論」が求められるか。単なる現代についての知識だけでなく、それらについての「自分の意見」を持っているかどうか、それを論理的に構成して提示できるかどうか、を見ているからです。「自分の意見」を持つには、先行する意見に対する「反論」を立てるのが近道です。
つまり、小論文に必要な力は次の3つです。
(1)現代についての知識
(2)要約力
(3)反論力
ここから『論点』を使った正しい小論文対策が導かれます。『論点』を読みながら、(1)現代についての知識を吸収し、そこで出会った様々な人の意見を(2)要約しながら、理解を深め、それに対する(3)反論を育んでいけばいいのです。
さやか 坪田先生から、とにかく「文章を読んで、論破する練習をしろ」と言われていたことを思い出しました。『論点』の中の論文を要約して、その人の意見を吸収した上で、「おまえはどう思うか。逆のことを論じなさい」と。最初は難しかったけど、この勉強法は自分の力がメキメキ上がってる感じがして、すごくうれしかった。
坪田 小論文に必要な3つの力を得るためにまずやらなければならないことは、活字に慣れることです。新聞や雑誌、本を手に取る習慣をつけなければなりません。さやかちゃんの場合も、いきなり『論点』に入ったわけではありません。活字がまったく読めなかったので、「まず本を月に1冊読みましょう」というところからスタートしました。最初に、山田詠美さんの『ぼくは勉強ができない』(新潮文庫)という小説。次に、小論文の勉強として『14歳からの哲学 考えるための教科書』(トランスビュー)。この本は読み物として面白く、基礎的な勉強に有効なので、小論文対策の入り口としてお薦めです。
さやか 勉強のあと寝る間を惜しんで朝になるまで『ハリー・ポッター』読んでました。受験中にあんな分厚い小説を(笑)。それぐらいはまって「本って意外と面白いんだな」って思ったら、ほかの活字も読めるようになったんです。
坪田 『論点』は「自分の意見」を養うのに非常に役に立つんですよね。なぜなら『論点』には、一般論は少なく、はっきりとこうだ、と言い切るようなものが多いからです。暴論、極論に見えても、本質を突く論文が多く載っています。エッジが効いてる分、反論を立てやすく、「自分の意見」を持つのに最適なんです。
小論文の極意
1.小論文で見られている3つのことは、(1)現代についての知識(2)要約力(3)反論力。
2.要は現代の問題について「自分の意見」を論理的に提示できるかが大事。
3.「自分の意見」は他人の意見を正確に理解(要約)し、それに「反論」することから生まれる。→小論文は、対戦相手を倒して、自分の結論の正しさを示す、「思考のボクシング」。
4.一般論ではなく、エッジの効いた文章が数多く収録されている『論点』は、「自分の意見」=「反論」を養うのに最適。