坪田式勉強法
坪田 では、具体的な小論文の勉強法に入りましょう。まず学習の計画ですが、『論点』の中から週に1本ずつ論文を選んで課題文とします。週1本のペースで進めていけば、4カ月あったら16本、半年あれば24本のテーマを勉強できます。
テーマは、各ジャンルからまんべんなく選びましょう。もちろん志望が経済学部だったら経済のジャンルから、文学部だったら芸能・文化のジャンルから必ず選び、過去問の傾向も踏まえましょう。
まずは課題文を読み込むこと。3回くらい音読すると、相当に理解が進むはずです。このとき、わからない言葉が出てきたら、必ず意味調べを行なうことが大切です。国語の勉強の根幹は、やっぱり語彙です。文章を読んで、全体の意味がよく分からない一番の理由は、そこに出て来る言葉を正確に理解していないことです。
言葉の意味調べは、『現代用語の基礎知識』(自由国民社)や、いまはネット版だけになってしまいましたが『知恵蔵』(朝日新聞社)や『イミダス』(集英社)などの用語辞典を使うといいでしょう。
さやか 知らないと全体が理解できない言葉は、私も必ず調べてました。
坪田 わからない用語の意味を調べていくだけで、知識がどんどん増えます。しかも『論点』に出てくる以上に難しい用語は、入試にはたぶん出てきません。
さやか そうなんですよ。だからこれだけやっておけば、本番が簡単。
坪田 課題文を読み込むことができたら、次に内容を要約します。と言うと、みんな内容を切り貼りでつないで縮めようとします。しかし、切り貼りは正確に理解していなくてもできてしまうので、意味がありません。要約のポイントは、専門用語や理解が難しい単語を自分の言葉で言い換えることにあります。
まず、段落ごとの要約をして、その後に全体の要約をします。課題文の6分の1くらいの長さが目安です。『論点』は1つの論文が2400字程度ですから、400字程度にまとめます。
さやか 要約のコツは、本当に簡単な言葉で言い換えることですね。難しい単語をそのまま書くと、わかってないなと思われそうで怖いから、あえて別の言葉を探して、自分の言葉で簡単に書き換えるようにしてました。『論点』の筆者の人たちって、わざと難しく言ってるんだと思って……。だから、「私が書き換えた文章のほうが、わかりやすいだろうな」と思いながら書いてました(笑)。だけど、言い換えようとする言葉の漢字を間違えると減点されるから、私の場合、ひらがなが格段に多くなる(笑)。
坪田 ひらがなが多少増えても、ちゃんと理解していれば、減点されません。逆に、課題文と同じフレーズが使われてたら、「本当にわかってるのか?」という目線で、厳しく見られます。
要約が終わったら、それを踏まえた「反論=自分の意見」を800字程度でまとめてみましょう。
ただ、ほとんどの人は「自分の意見を書いてみて」って言われると、課題文の内容をそのまままとめるだけになってしまいます。偉い人の文章を読むと、「ああ、そういうものなんだ」って、呑み込まれてしまうんです。そうならないためには、上から目線で読むしかありません。「こいつ何言ってるんだ。んなわけねえだろ」という態度で読まないと、「自分の意見」は出てこないんです。一文ずつ一段落ずつ、常にツッコミなり反論を考えながら、どうやったら論破できるか考えていきます。その過程では反論の証拠となりそうなデータをネットや本で調べて集めてください。そんなふうにして「自分の意見」を作っていくことで、多面的に物事を見る習慣を身につけてほしいとも思っています。
さやか 要約だけでなく、反論も練習しているうちにコツをつかんだ気がします。「確かにそうかもしれない。だがしかし」と書き出してみるとうまくいく(笑)。課題文を全部理解できたのかって言われると、そうではないんですけど、論破はできるようになっちゃった。要約した意見と逆の立場の人はどんなふうに考えるだろうと一生懸命、想像していくことで、書けるようになったんです。
坪田 さやかちゃん流の反論のコツとは?
さやか 段落ごとに反論していった気がします。そうすると、話が飛んでるところや根拠が薄くて誤魔化してるようなツッコミどころが目につく(笑)。
坪田 あるとき感動したのは、「財政再建か景気浮揚かっていったら、景気浮揚に決まってるでしょ」と僕に言ってきたこと。「こいつ頭おかしいじゃん」みたいな感じで、すごく怒ってるんですよ。
さやか 感情移入しやすいんで。私がよく覚えてるのは消費税についての論文があって、「税率を上げないと言ってる政治家がいい人に見えるけど、上げなかったら日本の未来はおかしくなる」といった内容の文章でした。消費税が上がったら自分が払わなきゃいけないんだからイヤだけど、上げないままだと将来こんな大変なことが起きる、って知らない人が多過ぎる。だったら、「消費税が無駄にされてるイメージにならないように政府は努力してほしいし、私たちよく分からない人たちに、もっとわかりやすく説明してほしい」と思ったんです。
坪田 消費税を引き上げるべきか否かではなくて、ちょっと違う角度から切り込んでみたんだね。それも立派な「反論」だね。真っ向から反論せずに、見落とされている視点を提示するというのも1つの方法です。
さやか 「確かにこうこうかもしれない。だがしかし、私はこの部分ではこういうふうに主張したい」みたいな感じで考えていくと、反論していけた気がします。とりあえず「だがしかし」って書き出してみる(笑)。
『論点』で要約力と反論力をつける
(1)『論点』から課題文を選ぶ(1週1本。16週なら16本、24週なら24本)。
(2)課題文を読み込む。
(3)わからない言葉は意味を調べ、正確に把握する。
(4)400字程度に要約。※自分の言葉で書き換える。
(5)上から目線で読み込む。※ツッコミどころを見つけて、本やネットで反論材料を集める。
(6)「反論=自分の意見」を800字程度でまとめてみる。