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2022/05/15

性被害の告白

 半年ほど前から複数回、知り合いの男にひどいセクハラを受けてきたという。2人きりの状況にされ、拒もうとしたが、心も体も硬直して声をあげられなかった。逆らったら恐ろしいことが起こるのではないか。そんな気がして、夫の私にも打ち明けることができなかったのだという。

 私はただ混乱して、「話してくれてありがとう」と返すことしかできなかった。

 男を呼び出し、問い詰めると、「すべて私の責任です」と事実を認めた。

 5月1日、ネットで調べた心療内科クリニックを訪ねた。妻の変調が起きてから約5年間、医療につながる日を待ち望んできたのに、感慨はない。胸には不安ばかりだった。

 診察室に通され、女性の院長と向き合った。説明は私がすることにしていたが、妻は自分の言葉で経緯も症状も語った。

 院長は話を聞いて、「明らかなセクハラです。あなたはまったく悪くありません」と言い切った。こうしたケースで、患者は被害者であるにもかかわらず自責感で苦しみがちだという。抗不安薬などを処方され、通院を続けることになった。

 あれほど嫌がっていただけあって、妻はすんなりと治療を受け入れたわけではなかった。はじめ、「一生飲み続けなきゃいけなくなりそうで、恐ろしい」と服薬を拒んだ。2回目の診察で「薬は恐ろしくありませんよ」と院長から諭され、やっと飲み始めた。受診をやめてしまわないかと心配していたが、妻はこの医師を信頼しているようだった。

 しかし、薬の効果は表れず、妻の幻覚はしだいに輪郭を持つようになった。「あの男が白い服を着て走ってくる」と真顔で話し、夜が更けると「死に場所探し」と称して近所を歩き回る。

 症状を重くみた院長から、精神科病院への入院を勧められた。「自分の目で入院先を選んでください」と用意してくれた3通の紹介状を手に、3カ所の病院を回った。

 1カ所目。診察した若い女性医師は「あなたにいちばん必要なのは休息。ここは重度の患者中心の施設だから安らげないだろう」と入院を勧めず、私たちは引き揚げた。

 2カ所目は異様な雰囲気だった。白衣を着た若い男性が待合室にいて、ぞんざいな態度で患者たちに指示をしている。診察室からは、医師の怒鳴るような大声が響いてくる。これでは患者のプライバシーなどない。

 私の同席が断られ、仕方なく妻ひとりを診察室に送り出すと、大声が聞こえてきた。「何されたって? それでどうした?」。こわばった表情で出てきた彼女に、私は「もう帰ろう」と言った。

 3カ所目は大学病院。「消えてしまいたい」と訴える妻に、男性医師が「それはつらいですね。でも、自分を傷つける行為だけはしないと約束してください」と語りかけた。ここに決めた。数日後にベッドが空き、初めての精神科病院での入院生活が始まった。

 入院すると、妻は1つの行為を儀式のように繰り返した。

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