タレント出身大統領のメリットとデメリット
国を問わず、歌手やスポーツ選手、俳優が選挙で高い得票率をマークすることがしばしばあります。メラビアンの法則によれば、容姿をはじめとした身体性と心に響く声とを兼ね備えていると大衆の大きな支持を得やすいということになる。
ゼレンスキー大統領はもともとコメディアンで、テレビドラマで大統領になる教師の役を演じました。日本でも堺雅人さんがドラマ「半沢直樹」の終了後すぐに国政選挙に出ていたら、トップ当選していたかもしれませんね。
ただ、こうした支持の高さは維持が難しいのです。ゼレンスキー大統領の支持率も2019年の就任時は80%あったものの急降下し、ロシア侵攻前はかなり下がっていました。少し時間が経てば、大衆はそれが一時的な熱狂だったかもしれないと疑念を抱きはじめます。
ロシアからの侵攻を受け、抵抗する姿勢を示した後は再び91%という驚異的支持率になりました。就任時の高支持率も、民衆の側に立つ自らのパブリックイメージを大切にし、旧権力を民衆と自分の仮想敵として見せることに成功したからでしょう。
一般論として、大衆の心を掴むことを企図するならば、仮想敵を設定し、その敵に対して果敢に立ち向かう自分を演出するのは極めて重要です。実際、世界各国で、首長を選ぶという段になると必ず近隣諸国のいずれかを仮想敵にする傾向があるようです。
仮想敵に立ち向かうリーダーに魅了された大衆には厄介なところがあります。そのリーダーに懐疑的な人がいると、本質的にはたとえ中立的であったとしても、批判、非難が強まってしまう現象が起こりかねません。裏切り者とさえ言われる可能性も低くないでしょう。
人は長く過ごした仲間に対する愛着と同様に、長く暮らした土地にも愛着を持ちます。その場所に長くいたということは、そこで生き延びることができたという実績として脳に刻まれ、脳は人をそこに留まらせようとオキシトシンを分泌します。すると人はそこにいるのが心地よくなる。これは「愛国心」の源と考えられます。
郷土から自分たちを追い出そうとする、あるいは郷土を破壊しようとするものに対して、オキシトシンは抵抗心を起こさせます。その抵抗心は、野生の母熊が子熊を攻撃するものに対して死に物狂いで戦うような激しい攻撃性として現れることもあります。この自然な反応に対して、疑念を抱いたり、客観的過ぎる意見を言ったりしただけでも、この攻撃の対象となってしまうことがあるのです。
オキシトシンのもたらすものは厄介です。幸せを感じるときに分泌される物質ではありますが、心地よさを時には立ち止まり、冷静に分析する態度も失わずにいたいものです。
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※全文は発売中の『週刊文春WOMAN vol.14(2022年 夏号)』「特集 戦争入門―戦争に慣れないために」にて掲載。後半では、「この戦争で特徴的なのが、ネットやSNSに溢れるフェイク情報や陰謀論。どう見極めれば、自分を守れますか?」「プーチンの独裁が問題視される中、フランスでは右翼のルペンが善戦。実は、ヒトは民主主義が苦手なんですか?」といった問いに回答します。
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text:Atsuko Komine
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2022夏号
2022年6月21日 発売
定価550円(税込)