京都議定書を意識か。自然に優しいガンダムへ
ガンダムはあくまでエンタメ。たとえばOVAの『第08MS小隊』(平成8年~)の舞台は東南アジアの森林や湿地帯で、カンボジアに派遣された自衛隊PKO部隊を連想させるものの、現地住民との軋轢など深刻なドラマはほぼない(小説版にはあるが)。時代性をある程度は反映するが、そのままの形ではないわけだ。
再び富野監督が戻ってきたテレビシリーズ『∀ガンダム』(平成11年~)は、19世紀のアメリカのような地方からスタート。まるで世界名作劇場のようなのどかな世界は、実は高度な文明が一度滅ぼされていたからだった。
戦いの発端は月に逃れていた人々の地球への帰還と、それに伴う現地との衝突。その生々しさは移民問題であり、ヨーロッパでの民族紛争のその後だ。
かつて文明を滅ぼしたのは、∀ガンダムだった。愚かな地球人は殺さず、兵器や機械など人工物だけを砂に分解する……という自然に優しい最終兵器は、温室効果ガスの排出削減をめざした京都議定書(平成9年)への意識を感じさせる。
∀ガンダムが滅ぼした過去の文明は「なかったこと」にされ、「黒歴史」として封印された。今ではすっかり定着した「黒歴史」(なかったことにしたい過去)という言葉は、もとを辿れば「∀ガンダム」から生まれたものだったりする。
ガンダムでは「原発ゼロ」が実現していた
遺伝子改造された超人であるコーディネイターや、スーパーロボットのようなアクションが印象に残る『機動戦士ガンダムSEED』(平成14年~)も、実はエネルギーをめぐる戦争ということで生々しい匂いがする作品だ。
地球側(味方)が核攻撃をしたために、スペースコロニー側(敵)は核分裂を抑止する装置を敷設。その結果、なんと核攻撃ばかりか原子力発電も行えなくなった。「原発ゼロ」が、強制的に実現されてしまったSF世界!
そして最強のフリーダムガンダムは核エンジンを搭載。まさに東海村JCO臨界事故(平成11年)と福島第一原発事故(平成23年)に挟まれた時期ならではの「禁断の兵器」だ。昼ドラのようなドロドロの恋愛劇も凄まじい「SEED」だが、原発が封じられたためにエネルギー輸出が政治的カードになったりと、駆け引きも大国の外交さながらの奥深さがあった。
スマホ時代と世代間格差を予見しつつ任侠風も
初代iPhoneがデビューした年に開始した『機動戦士ガンダム00』(平成19年~)は、国際紛争に軍事介入するガンダム達を描く。国境を超えて世界の人々の心に波紋を広げ、最終的にはコミュニケーションをテーマとした「00」は、まるでスティーブ・ジョブズのようでもあった。
同じ平成23年から展開された『機動戦士ガンダムUC』(アニメ版)は大人向け、『機動戦士ガンダムAGE』は子供向けに位置づけられたが、どちらも「ファースト世代の高齢化」というコインの裏と表だ。
そして近年放送された『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』は、消耗品として使い捨てられていた少年少女達が大人に反旗を翻す、少子高齢社会での若者搾取を思わせるドラマ。火星で旗揚げした主人公達は、宇宙マフィアと義兄弟の盃をかわす……ということで「任侠ガンダム」の異名を取る。正義よりも実利を優先する仁義なき戦いは、右や左より経済政策で支持政党を決める今どきの若者にも通じる。
ガンダムで始まり、ガンダムで終わる平成という時代。人が生きていくために変わるように、ガンダムもまた時代とともに進化していく。次の元号とともに現れる、新たなガンダムを待とうではないですか。