激減する戦争体験世代
これまでの渡辺の証言から浮かび上がってきたのは、戦後政治を主導した政治家と市井の人々が共通して持っていた戦争体験と、その体験を元にした戦争への認識を基盤に、戦後日本が形成されていったという側面である。昭和期は、政治家の多くが戦争体験を持ち、戦争を忌避する感情は、立場は違えど保守陣営、革新陣営に共通するものがあった。
しかし終戦から77年が経過した現在、戦争の記憶は社会の中で薄れつつある。戦後生まれの割合は日本の総人口の86%(※5)に上り、戦争体験を持たない人々の割合が圧倒的多数となっているのだ。終戦時に18歳以上だった明治・大正生まれの世代に至っては、人口の0.5%に過ぎない。
さらに私が調べていて驚愕したのは、戦争の時代を経験した国会議員の割合が、平成期にかけて劇的に変化していることだ。『国会議員要覧』に記載されている全国会議員の生年月日を確認・集計してみると、その変化は数値に歴然と現れていた。
1989(平成元)年には、戦前生まれの政治家の割合は衆参合わせて748人のうち710人、実に95%に上っていた(※6)。当時の最年長議員は、1902(明治35)年生まれで、かつて大野伴睦派に属し自治大臣や衆議院議長を歴任した福田一(当時87歳)だった。
明治生まれの議員ですら、1904(明治37)年生まれで内閣官房長官や防衛庁長官を歴任した赤城宗徳(当時84歳)、1905(明治38)年生まれで総理大臣を務めた福田赳夫(当時84歳)ら30人を数え、4%を占めていた。戦争の最前線に立たされてきた大正生まれの世代も、265人と35%に上った。これに対して戦後生まれの政治家の割合は、わずか38人、5%であった。ちなみに最年少は1957(昭和32)年生まれの石破茂(当時32歳、1期目)だった。
これが平成中盤の2003(平成15)年には、戦後生まれの割合は48%と、戦前生まれの割合と拮抗してくる(※7)。さらに2022(令和4)年となると、戦前生まれの政治家の割合は衆参合わせて712人のうち14人とわずか2%弱となり、戦後生まれの政治家の割合は実に98%に上っている(※8)。
終戦時に5歳以上とある程度の記憶があったと思われる議員に限ると、1939(昭和14)年生まれの元自民党幹事長の二階俊博1人しか存在しない(※9)。平成生まれの議員ですら2人誕生している。
平成期の30年あまりで、戦前生まれの政治家の割合は、95%から2%へと釣瓶落としのように激減し、ほぼ雲散霧消してしまったのである。まさに平成期が、戦争経験を持つ戦前生まれの世代と、戦争経験を持たない戦後生まれの世代が、国政の現場で入れ替わる転換期となっていたことを読み取ることができるだろう。