2022年の日本プロ野球、オリックス・バファローズはリーグ連覇、そして、26年ぶりの日本一を飾った。もちろんチームの力が結集しての戴冠ではあるものの、その結果にエースである山本由伸投手がもたらした功績は計り知れないものだろう。
今回行われるWBC 2023の投手陣でも中心的な役割を担う山本投手。しかし、入団直後の同投手は、その独特なフォームに対し、周囲からさまざまな意見が寄せられていた。山本由伸はそうした事態をどのように捉えていたのか。
スポーツ・ノンフィクション作家の中島大輔氏による『山本由伸 常識を変える投球術』(新潮新書)の一部を抜粋し、紹介する。
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2年目の春季キャンプでの“事件”
「この中に僕の味方は一人もいません」
2018年2月にオリックスの春季キャンプが始まって数日経った頃、当時、山本が契約していた運動用具メーカー「オンヨネ」の代理店プロスペクトで働く阪長友仁が宮崎市清武総合運動公園を訪れると、そう打ち明けられた。
1年目とは大きく異なる投球フォームに改造して2年目の春季キャンプに臨んだ山本は、周囲の猛反対に遭った。球団スタッフの立場から、山口和男が振り返る(注:山口は1999年ドラフト1位でオリックスに入団した元投手で、2009年引退後にスカウトに転身)が振り返る。
「期待された中での2年目のスタートで、『投げ方が変わっている』という連絡を球団から受けました。自分はキャンプ初日からチームに帯同していたわけではなく、チームに呼ばれて実際に見たとき、投げ方が全然違うなというのはありましたね。本人はしっかり自己分析ができて、先を見据えていろんなことができる子だとわかっていたので、球団としてはその投げ方がダメということではなく、故障のリスクだったりを考えてのことで、全てを否定していたわけではないです」
オリックスで特に出会いが大きかった人物
山口に当時の“事件”について訊くと、婉曲な答えが返ってきた。
野球界の常識で考えれば、オリックスが山本の投球フォームに反対するのは当然だろう。ピッチングは肘から先をしならせるように使うものと考えられ、山本のように肘を曲げずに腕を伸ばしたまま投げるのは「アーム投げ」と分類される。バッティングセンターで見かけるような、アームを旋回させてボールを投げるマシンが由来で、肩や肘への負担が大きいとされる投げ方だ。
じつは春季キャンプに臨む前から、周囲の猛反対に遭うことは山本自身も想定済みだった。とはいえ、高卒2年目の投手が大きなショックを受けたことは想像に難くない。当時の心情がよく伝わってきたのが、「オリックスで特に出会いが大きかった人」について尋ねたときの答えだ。
山本が挙げたのは3人の名前だった。元投手コーチの酒井勉、スカウトの山口、そして2019年から巨人でプレーしている中島宏之の名を挙げた。