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「この中に僕の味方は一人もいません」山本由伸が語った、とある“周囲の猛反対”〈WBCでは4回1安打無失点の好投〉

「この中に僕の味方は一人もいません」山本由伸が語った、とある“周囲の猛反対”〈WBCでは4回1安打無失点の好投〉

『山本由伸 常識を変える投球術』より

2023/03/13
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「何か新しいことをしようと思えば、結果が出るまではいろんなことを言われると思うけど、信念を持ってできるのであれば頑張れ。そう声をかけたんですよね。今までの野球界にはない腕や身体の使い方をしていたので。それが1年で結果を出してくれました。自分自身も球団の人間として由伸と付き合わないといけないところもありますし、同じピッチャーの先輩として付き合わないといけないところもある。いろんな角度から山本由伸と接しないといけないので、当時は自分自身もすごく悩みましたし、辛い思いもしました」

独特なフォームは「アーム投げ」なのか

 二人の言葉を振り返ると、投球フォームの変更がどれほどの衝撃を周囲に与えたのか、よく伝わってくるだろう。

 誰が見ても明らかにわかるように、プロ1年目とそれ以降で山本の投げ方は大きく変わった。

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 では、独特なフォームは世間で「アーム投げ」と分類されるようなものなのだろうか。同じ右投げの投手として、山口が見解を示す。

©文藝春秋

「自分は由伸の投げ方をアームだと思ったことは1回もないです。テイクバックが体から離れるので『肩に負担が来る』とか、いろんなことを言われていると思います。でも、由伸はテイクバックからトップをつくるときに肩甲骨や肩関節をうまく使えるのでアームだとは一切思わないですね。トップの位置からリリースまでの距離がとれる分、腕の振りを加速させる距離が長くなるので、いいボールを投げられる。理論的には合っていると最初に見たときも思いました。ただし球団の考えでもある、故障のリスクがどうなのかなという疑問があったくらいです。アームだから、とは思わなかったですね」

技術の高さによる腕のしなり

 一般的にピッチャーの投球動作は、並進運動と回転運動に分けられる。最初に始まるのが前足を踏み出す並進運動だ。簡潔に言うと助走のようなもので、下半身で大きく前に行くことでリリースに向けて勢いがつきやすくなり、続く上半身中心の回転運動でスピードを生み出しやすくなる。これらの動作中に身体の各所でうまく力を発揮し、連動させることで球速や球威が高まっていく。

 山本の投球フォームでは腕の使い方に目が行きやすい一方、大きな特徴は前足によるストライドの大きさにある。だから山口が説明するように、肘を上げたトップの位置からリリースまでの距離がとれ、より大きな力を生み出せるのだ。

 オリックスの山岡泰輔やソフトバンクの松本裕樹らとトレーナーとして個人契約する前述の高島誠も、山口の見解に同意する。山本が独特な投げ方をできる秘訣は「胸郭」のしなやかさにある、というのが高島の解説だ。