全員否定の中、唯一応援してくれたのは…
理由にしたのは、いずれも2年目の春季キャンプでの対応だった。
「3人は初めての自主トレが終わった後の2月のキャンプで、僕を否定しなかったんです。中島さんはそれまで1回もしゃべったことがなかったけど、アップをしていたら『最近どうや?』みたいな感じで来てくれて、『こういうことがあって、あまり良くないです』と言ったら、『そんなんやってみてダメだったら、やめたらいいやん。やるならやったらいいやん』って言ってくれました。他は全員否定の中で。酒井さんにも『何を考えてやっているの?』って聞かれて、話したら『それならいいんじゃない』って。(山口)和男さんは最初、たぶん上の人に『止めろ』みたいに言われて来たと思いますけど、次の日にすぐ来て、『お前の話を聞いてなかったわ』って。説明したら、すごく応援してくれて。で、周りの人にもうまく言ってくれてという感じですね」
繰り返しになるが、野球界の常識から考えれば、オリックスの反応は“普通”だろう。
対して山本の立場からすると、自身が信じて挑戦を始めたことが周囲の猛反対に遭った。すべてを否定されるような感覚に陥ったはずだ。
以上を一言で表せば、両者の間には「齟齬」があった。当事者の山口が振り返る。
「自分が自信を持ってやってきたことに関して、そういうネガティブな感じで捉えられると、自分がやるべきことを否定されていると感じるのは当然だと思います」
山本の「やり抜く強さ」を信じた良き理解者
球団からすれば、金の卵を傷つけるわけにはいかない。
対して山本からすれば、投手人生を懸けて取り組み始めたばかりのことだった。
両者の間には、決して容易に埋められない「溝」が生まれた。普通の高卒2年目の投手なら、「四面楚歌」で自分の方法を貫けなかっただろう。
だが、山本には信じたことをやり抜く強さがあった。そして、良き理解者がいた。
球団との間に橋を架けたのが、担当スカウトの山口だった。上層部の命を受けて新たなフォームをやめさせようとした翌日、なぜ、もう一度話しに行ったのだろうか。
「ピッチングコーチを含めて球団がどういうふうに考えているかを伝えたら、本人の表情があまりにも曇っていたので、溝を埋められればと思いました。それでも本人は『この投げ方でやっていきます』という強い意志を持っていたので、『それは違う』と否定することは自分にはできませんでした」
山本の奥底にある芯の強さを感じると、山口は立場を変えて、改めて本心を伝えた。