上田 そうやってキャッチャーが、相手バッターの調子を崩させることもあるんですか。わざとフォアボールで歩かせてじらしてじらして、ちょっと崩していくみたいな。
古田 そうですね。要するに、打たなくてはいけない状況かどうかが大きいです。たとえば、4月に開幕してからの1カ月に、ヒットを打っているかどうかが、じつはものすごく大きいのです。
打率が低い選手はボール球も打つしかない
上田 それはなんでですか?
古田 たとえば、開幕して10試合終わったときに、前の年の打率が3割の選手でも、スロースターターのせいで1割くらいの選手はいます。ちなみに僕は、新聞でいつも打っていない選手をチェックしていました。
当然の話ですが、打率は打たないと上がりません。だからずっと打てていない選手は、打率の低い成績を球場にある電光掲示板に表示されているので、ずっと大観衆に見られています。しかも、凡退が続けば代打を出されることもあります。つまり、打率が低い選手は、“打たなきゃいけない”という心理状態になるわけです。
上田 なるほど。フォアボールを選んでも打率は上がらないから、打つしかないですね。
古田 そんな心理状態の選手に対して、ストライクゾーンに投げたら打たれてしまいます。だから、その場合はボールゾーンで勝負します。そうしたら勝手に手を出して、打者はどんどん深みにはまっていきます。
シチュエーションによるメンタルの変動
逆に、最初の20試合くらいまで絶好調で、打率が4割近い選手は、なるべく打率を下げたくないという心理状態になります。だからフォアボールを取りたがります。極端なことを言えば、それから1年ずっとフォアボールを取れれば首位打者になれますし、レギュラーでずっと出場できますから。そうなると、きわどい球には絶対手を出さないし、甘い球でも見逃すようになります。
つまり、打ちたいか、見逃したいかで打ち方はかなり違ってくるわけです。去年の終盤の村上君の場合は、多くのファンからホームランを期待されているから、打たなくてはいけないし、振らなきゃいけない心理状態になっていたと思います。
上田 フォアボールを選んでも誰も喜んでくれませんしね。
古田 ホームランが出なかった前の打率は3割4分近くありましたが、村上君自身もけっこう嬉しかったはずです。だからホームランを意識しなければ、フォアボールをたくさん取っていればいいわけです。胸張って一塁に行き、“あとは(ホセ)オスナよろしくね”でいいのです。ところが、ホームランを打たないといけないムードにさせられてしまったから、打ち気になって、強引に振って凡打を重ねてしまい、打率も下がってしまいました。やはり、メンタルというのはシチュエーションによっていろいろ変わっていきますね。