外部の人間に接することへの不安
たとえば福井の場合。福井県が作成した「電源三法交付金制度等の手引き」によれば、制度が出来た昭和49年から令和3年までに福井県には合計しておよそ5950億円の交付金が付与されている。令和3年度は約170億円だった。財政難に苦しむ地方自治体にとっては、有難すぎるほどの金額である。
話を福井南高校の1年生、今泉に戻そう。原発を調べている内に「電源三法」の存在を知った今泉。そのお金はどこに使われているのか? 誰がそれを決めているのか? どこで決められているのか? 今泉の頭は疑問で一杯だった。
福井県の原子力安全対策課に連絡し、面談の約束を取り付ける。こう書けばいかにも容易いことだ。電話を一本するだけのことなのだから。しかし、今泉にとっては、その一本の電話さえ、自らの勇気が試される場面だった。中学時代、不登校だった彼女の世界は狭かった。ところが、原発という窓から覗き込んだ社会は限りない広がりを持っていた。しかし、その広さに今泉は逡巡する。高校の“外”、つまり外部の人間に接することへの不安が今泉の心を縛る。不登校だった頃の自分が、高校生となった自分を不安にさせた。
「外の人に会うということ。学校の外に出ることが不安でたまらなかった」
不安を乗り越えさせたのは、心の中に眠っていた「知りたい」という欲求だった。どうなっているのか? その先には何があるのか? こうした今泉の思いが、不安という呪縛から自らを解き放っていく。
原発が生み出しているのは電力だけではない
「小さな、小さなことでしたが、生まれ変わったような思いでした」
面談の約束をとりつけた福井県庁原子力安全対策課へは、教員の浅井が引率し、今泉、そして「特別授業」に触発され“原発探究”に参加していた伊藤弥生の3人で出向いた。
今泉らは、担当する県庁の職員から「電源三法」に基づく交付金についての説明を受ける。驚くことばかりだった。交付金で道路が出来ている、公園が出来ている、普段見慣れたあの建物も交付金で出来ている……。今泉は思うのだった。日常生活のこんな近くにあるモノが原発立地による交付金で出来ている。原発が生み出しているのが電力だけではないという事実が今泉に新たな視点を持たせることになる。
そして、何よりも今泉を驚かせたのが“恐竜”だった。県庁の職員が言う。
「あの駅前の恐竜も交付金で出来てるんですよ」
「あの恐竜もですか……」