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数兆円の規模の雇用が一夜で消えた

 2021年夏に出された同政策により、小中学校の学習塾は一斉に閉鎖された。つまり、数千億元(日本円で数兆円)規模の教育産業と1000万人とも2000万人ともいわれる塾産業関係者の雇用が一夜で消えたのだ。これは読者も記憶に新しいだろう。

 産業をまるごと禁止してしまうというあまりの乱暴さに耳を疑い、驚いた一方で、筆者も複雑な思いはあった。なぜなら、確かに、北京で地元の学習塾を見ていると、中国の塾サービスの高級化は加熱する一方だったからだ。

©getty

 中国の消費レベルは、住宅に至っては東京の2倍以上など、様々な領域で急速に値上がりしているが、子どもの塾費用も同様で、日本以上に高騰していた。日本の塾費用も決して安くはなく、一般家庭の家計にとって負担になっているはずだが、中国の塾と比較すると「良心的」とさえ思えてくる。そのくらい、北京の塾費用は阿漕な商売で、高騰していた。そこには明らかに「お金があれば、良い先生に指導してもらえて楽に高い点が取れる」という公式が成り立っていた。金が物を言うという不公平感は子どもも感じ取っていたはずだ。

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 例えば、周囲で「効果がある」と評判だったのが懇切丁寧な一対一の小中高生を対象とした高級個人指導サービスだ。授業を行う場所は学生宅ではなく塾だが、サービス自体は家庭教師と同じで、最も質の高い個人指導に当たる。この学費は1回2時間(実際には45分授業が2コマ)で1000元(約2万円)前後。1カ月の学費はこれだけでもざっと8万円、例えば数学と物理の2教科を受講したらその倍になる(北京の高校統一入試には国数英と並んで政治と物理が必須科目だ)。

 さらに、驚いたのは、中学3年生の高校受験直前になると現れる、真偽は定かでないが、受験問題作成に関わっているとか、名門中高の現役教師であると自称する「特別な先生」による試験直前指導の学費の高さだ。「点数を5点、10点上げる」ことなどを約束する「成果請負い型」の一方で、1時間で3万円以上の学費もざらだった。焦る親心を逆手にとって、名門に入るためなら金にものを言わせて当然、という空気がみなぎっていた。

 このほかにも、子どもたちは小学校低学年の頃から、英会話にピアノ、ダンスや習字に水泳、武道、プログラミング、司会者・アナウンサー発声術などあらゆる分野の習い事をしており、同じマンションには、月曜日から日曜日まで、土曜日以外はぎっしり習い事が詰まっているという小学生もいた。学習塾は禁止されたが、小中学校の学科以外の塾は規制外だ。そこで早速、高校統一試験で配点数が増えた体育の実技テスト対策の塾も、最近は増えている。体育に至るまで偏差値評価され、塾通いが流行るのだから小中学生は本当に大変だ。