累計発行部数460万部を超える自己啓発小説『夢をかなえるゾウ』はなぜ大人だけでなく、子どもにも刺さったのか? ライターの飯田一史氏の新刊『「若者の読書離れ」というウソ:中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』より一部抜粋してお届けする(全2回の2回目/前編を読む)
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自己啓発嫌いも包摂する『夢をかなえるゾウ』
2007年に刊行を開始した水野敬也『夢をかなえるゾウ』(通称『夢ゾウ』)はシリーズ累計460万部を突破し、現在の出版元である文響社による惹句で「日本一読まれている自己啓発小説」と謳われている。
『夢ゾウ』は学校読書調査を見ると2009年調査で中1男子の12位、2014年調査で高2男子の2位、2021年調査で高1男子の15位、2022年調査では高3男子の10位に入っている。このシリーズと『君たちはどう生きるか』を除けば、中高生に読まれる自己啓発小説は少なく、かつ、長期にわたって中高生に一定の人気がある自己啓発本もまた少ないことから、取り上げてみたい。
同シリーズは『夢をかなえるゾウ』が2007年、『夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神』が2012年、『夢をかなえるゾウ3 ブラックガネーシャの教え』が2014年、『夢をかなえるゾウ4 ガネーシャと死神』が2020年、『夢をかなえるゾウ0 ガネーシャと夢を食べるバク』が2022年に刊行されている。
このシリーズの基本的な筋立ては、くすぶっている冴えない主人公のもとに、関西弁でしょうもないギャグを連発し、エジソンやアインシュタインをはじめとする世のなかの偉人や天才は自分が導いてやったと豪語するゾウの姿の神様ガネーシャが現れ、主人公はガネーシャに出された課題を半信半疑ながら実行するなかで、少しずつ夢に近づいていったり、人生の真理に気付いていったりする、というものだ。
ガネーシャが主人公に出す「課題」のほとんどは「靴を磨く」「トイレ掃除をする」といった単純作業だ。自己啓発本の代表格スティーブン・R・コヴィー『7つの習慣』にある「ミッション・ステートメントを作る」のような、読者が自ら自分の人生に引きつけ、中長期的な視点に立ち、時間をかけて考えなければいけない、負荷が大きい作業はほとんどない。