少子化でもなく、作品の質の低下でもない……かつて出版業界の成長産業として、大きく期待されていた「ラノベ」はなぜ読まれなくなったのか?

 ライターの飯田一史氏の新刊『「若者の読書離れ」というウソ:中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む) 

わずか10年でラノベに何が起きたのか? ©getty

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伸びる児童書、落ちるラノベ

 書籍不読率減少と平均読書冊数増加の恩恵を受け、児童書市場は少子化にもかかわらず堅調に推移し、子どもひとりあたりの書籍代も増加傾向にある。

 1998年には児童書販売額700億円、14歳以下人口は1937万人、児童書の14歳以下人口ひとりあたり販売額(年間)が3614円だったのが、2021年には児童書販売額967億円、14歳以下人口は1493万人、ひとりあたり販売額が6477円(図10参照。児童書販売額は出版科学研究所『出版指標年報2022年版』、14歳以下人口は総務省統計局人口推計を元にした)

 

 対照的なのが文庫のライトノベル(ラノベ)市場だ。ライトノベルとは何かの定義はさまざまだが、簡単に言えばKADOKAWAの電撃文庫や角川スニーカー文庫といった特定のレーベルから刊行されるエンターテインメント小説だ。カバーや口絵、挿絵にキャラクターのイラストを用いており、マンガやアニメ、ゲームと近い感覚で読める、サブカルチャーとしての文芸である。

 中学生の読書量は微増、高校生はほぼ横ばいであるにもかかわらず、文庫ラノベ市場は2012年の284億円をピークに、2021年には123億円と半減以下になった(出版科学研究所調べ)。2000年代には産業として注目され、2012年までは市場が伸び基調にあったが、それは過去のものになった。「ターゲット層の読者が少子化しているのだから仕方ない」と思うかもしれないが、さすがに子どもの数は10年で半分にはならない。

 10代人口の減少率は毎年小数点以下数%から1%台前半である。対して文庫ラノベ市場は激しいときには前年比14%近く減少しており、少子化の速度をはるかに上回っている。かつて「中高生向け」と言われたラノベ市場に、一体何が起こったのか。

 これには、2010年代を通じて、株式会社ヒナプロジェクトが運営する日本最大級のウェブ小説投稿・閲覧サイト「小説家になろう」発の単行本ラノベ(判型が大きいソフトカバー仕様単行本で、文庫本コーナーではない場所に置かれるもの)という「大人向け」の市場が開拓されたことが関係している。