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少子化でも、作品の劣化でもない…「ラノベ市場」が10年で半分以下に衰退した“意外すぎる理由”

少子化でも、作品の劣化でもない…「ラノベ市場」が10年で半分以下に衰退した“意外すぎる理由”

『「若者の読書離れ」というウソ』 #1

2023/06/19

genre : ライフ, 社会, 読書

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「小説家になろう」というウェブサイトには、誰でも小説を投稿できる。その無数に投稿されたウェブ小説のなかで人気になった作品が、2000年代後半以降、書籍化されるようになった。そのほとんどは、出版社主催の小説新人賞を受賞するなどしてプロデビューした作家によるものではなく、それまで商業出版の経験がないアマチュアが投稿した作品である。

「小説家になろう」に限らず、各種小説投稿サイトで人気を博したことで商業出版デビューを果たす作家は、今ではまったく珍しくなくなった。「小説家になろう」発の異世界ファンタジーは「なろう系」と呼ばれる。なろう系のウェブ小説を書籍化した際の読者の中心は、作品にもよるが多くが20~40代、つまり大人であると言われている。

 そして2010年代前半には、なろう系作品が従来の文庫ラノベよりもよく売れる、すなわち売上の初速が良く、重版率が高いという現象が確認された。2013年には推定発行金額が30億円市場だった単行本ラノベ(その多くがなろう系書籍化)は、2016年には100億円市場に急成長し、以降はほぼ横ばいをキープしている(出版科学研究所調べ)。

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文芸市場の規模は10年で「4分の1」に

 2013年以降、文庫ラノベが凋落していったこととは対照的である。この差はなぜ付いたのか。なろう系は、ウェブ小説サイト上で人気になった作品だけを本にする。つまり読者によるテストマーケティングが先に済んでおり、ウェブ上での競争に勝った作品だけを書籍の企画として通す。そちらのほうが本読みのプロ、「目利き」であるはずの編集者が企画のジャッジをしている書き下ろしの文庫ラノベよりも、ヒットの打率が高かったのである(大半の作家や編集者は、どうがんばっても一般的な読者とは感覚がズレており、実際の読者が支持した作品を本にしたほうがよく売れる、ということだ)。

 正確に言えば、ラノベに限らず、小説誌・文芸誌発の一般文芸や、ミステリー、SFといったジャンル小説よりも、人気のウェブ小説書籍化のほうがよく売れた。「出版月報」(出版科学研究所)2021年9月号によれば、文芸単行本全体に占めるウェブ発のラノベ単行本の割合は冊数ベースで43.7%、金額ベースで37.2%に及ぶ。

 また、日販営業推進室出版流通学院『出版物販売額の実態2021』掲載のグラフによれば、2010年の売上を100としたときの2020年の文芸市場の売上は46.4、同『出版物販売額の実態2022』では2011年の売上を100としたときに2021年は46.7である(図11参照)。

 

 つまりウェブ小説書籍化は、2010年代を通じて「半分」以下になった文芸市場のおよそ「半分」を占めた――ウェブ小説以外の文芸市場の規模は10年で4分の1になった――ことになる。市場のシュリンクに抗うように成長してきたウェブ小説書籍化作品群が存在していなければ、文芸市場はより壊滅的にしぼんでいたはずだ。