「警察からは『(誘因事故ではなく)人身事故です』と聞いていたので、なぜそんな主張をしてきたのか、理解に苦しみました」(同前)
鈴木氏側の弁護士とAさんの話し合いの場が設けられ、今年5月、弁護士からAさんに対して示談書が届いた。
「治療費や休業損害、障害慰謝料などで損害額の合計が約21万2千円でした。専門家にも相談しましたが、少なすぎるとの見解でした。事故当日からの態度に不信感でいっぱいで、納得いかず、今も示談には応じていません」(同前)
今回の事故の問題点について元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士はこう語る。
「もし被害者が事故で怪我をしている可能性を知っていながら鈴木氏が車から降りてこず、110番通報もしなかった場合、道路交通法第72条で定められた救護義務違反に当たる可能性があります」
「被害者が逆走してきた」鈴木氏の主張にある“嘘”
鈴木氏は事故についてどう答えるのか。鈴木氏の携帯を鳴らしたが応答はなく、代わりに事務所がメールでこう回答した。
「事故が起きたのは事実です。見通しの悪い交差点で一時停止したところ、一方通行を逆走してきた自転車が左方向から交差点に進入してきて、私の車両の目の前で停止し、バンパーと接触したと訴えてきた事故がありました。事故の際にすぐに車から降りてお相手様に怪我がないかを確認しました。お相手に謝罪していないというのも事実ではありません。保険会社の担当者がお相手様の受傷を疑ったことや請求が過剰であったことなどから弁護士への依頼を打診されました。事故は人身事故扱いになっています。本件事故は私が公的な立場にない時に発生した、まったく私的なものです。また、私個人としては、なしうる最大限の誠意を持って、お相手様に対応しています。もっとも、保険会社、弁護士は、お相手様の主張・請求が過剰であると判断し、対応しています。(文春記者が)そのような過剰請求に加担することのないよう、適切にご判断いただけるものと信じております」
謝罪の有無などについて、真っ向から食い違う両者の言い分。だが、さらに取材を進めると、鈴木氏の主張について2つの疑問が浮かび上がってくる。1つは警察が、鈴木氏の主張するような「誘因事故」ではなく「人身事故」と認めている点。そしてもう1つ、記者が現場を検証して分かったことがある。道路の標識には「一方通行」とあるが、「自転車を除く」と明記してあり、「被害者が逆走してきた」とする鈴木氏の主張は成り立たないのである。
東京都議と交通事故といえば、想起されるのが一昨年の夏に起きた木下富美子都議(当時)の事件だ。衝突事故を起こして相手方にけがを負わせ、かつ無免許だったことが発覚。所属していた「都民ファーストの会」を除名処分となった後、都議会では辞職勧告決議を、自民党も含む全会一致で可決している。都議会自民党が、今回の鈴木氏の件についてどのような対応をとるのか注目される。
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