2017年から始まった「文春野球コラム ペナントレース」。我がライオンズは初代監督・中川充四郎さんが記念すべき初稿を執筆し、その歴史がスタートした。
当時の私は足掛け5年間担当したライオンズの公式YouTube動画制作を離れ、テレビの世界に戻ったばかりで、ライターになるなんて想像もしていなかった。
前年まで働いていたライオンズがテーマのコラムを楽しむうちに、気がつけば渋谷ロフト9で行われていたイベントにも足繁く通うようになった。
ライオンズのコラムではないが、長谷川晶一さんと松中みなみさんが対決した「とり」というテーマのコラムは、そこに至るまでの経緯も含めて、とても面白かったと記憶している。
そんな私がライオンズにおいて、おそらくこの形式での最後、いわゆる“トリ”を務めることになるとは思いもよらなかった。せっかくきたお話なので、ありがたく引き受けさせていただいたものの、さて何を書けばいいものか。引き受けてから、日々苦悩することとなった。
書き手としては、まだまだ駆け出しの私が最後を任されていいものなのか。最後を締める事がこんなに大変なことだとは思ってもみなかったからだ。
豆田流“ネガティブシンキング”
悩める日々を送っているうちに、本家のライオンズがシーズン最終戦を迎えた。10月3日、敵地でのロッテ戦は3点のリードで9回裏を迎えていた。あとアウト3つを取れば、苦しかったシーズンを勝利で締めくくることができる。
200セーブまであと6に迫っていた守護神・増田達至はシーズン終盤に調子を大きく崩し、腰痛で登録抹消となっていた。思い返せば、開幕戦はルーキーの青山美夏人が9回のマウンドに立ち、オリックスへFA移籍した森友哉に同点ソロホームランを叩き込まれている。試合の最後を締めるクローザーにも苦しんだ1年だったことを改めて思い出した。
マウンドには一体誰が上がるのか。順当ならシーズン途中からブルペンに加わり、7セーブを挙げているクリスキーだろう。しかし、シーズンを締めくくる最終戦のマウンドをライオンズベンチが託したのは、今年7月に支配下登録されたばかりの高卒3年目・豆田泰志だった。
豆田には、シーズン中にも取材した事があった。身長は173センチと決して大柄ではないが、体の真上からリリースされる強烈な縦回転を利かせた150キロを超えるストレートがとても魅力的なピッチャーだ。
その球をどんどん投げ込む強気なピッチングスタイルで、パ・リーグの並居る強打者に真っ向勝負を挑んでいく。その姿は見ていてとても気持ちがいいものだった。
「自分のピッチングをするだけです」。その姿勢で最終戦までに15試合登板して、失点はわずかに1。防御率も0点台と驚異的な数字を叩き出していた。
大胆とも言える投球スタイルで見事に結果を残してきた。しかし、その裏側には意外な一面も持ち合わせていた。
「ちょっとネガティブなところがあって、試合の前には結構自分の評価を下げて、常に最悪のケースを考えておくようにしています。自分の中で悪い場面を想像しておいたときに、心の準備ができているという感じです」
最悪のケースを想定しておくことで、実際にそうなっても動揺しない。常に心の準備をしておくことで、ランナーなどの周りに影響されず「自分のピッチング」を貫くことができているというのだ。
どんどん攻めていく大胆な投球スタイルが、実はネガティブな考え方のもとに成り立っているというのは面白い。豆田の投球スタイルを支えていたのは“ポジティブシンキング”ならぬ、“ネガティブシンキング”というわけだ。