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 加害者の目的は、子どもをカウンセリングすることでも、家庭に居場所がない子どもに寄り添うことでもありません。あくまで性を使った加害行為を達成することが目的です。その目的を遂行するためには、彼らはターゲットを慎重に選びます。まるでピラニアが血の匂いを嗅ぎ分けるかのように、加害者は孤立した子どもを鋭敏に察知し、狙いを定めていくのです。

 もしも子どもが親に悩みや不安をすぐに相談できるような良好な関係なら、小児性犯罪者のターゲットにはなりにくいといえます。万一被害にあっても親に相談し、すぐに加害行為が発覚するからです。小児性犯罪者がもっとも恐れているのは、加害行為が発覚することです。彼らは第六感ともいえるセンサーで、すぐに加害行為がバレてしまうような相手はターゲットから除外していくのです。

 家庭で親と十分にコミュニケーションを取れず、誰にも相談できない孤立感を募らせた子どもほど、グルーミングのターゲットにされやすい。これはなんとも残酷な現実です。

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 この事例の加害者Dは「芸術作品だから」と言いながら、女子生徒にヌード写真を見せています。これには子どもに性的なコンテンツにあえて触れさせることで、境界線をあいまいにし、感覚を麻痺させていく意図が含まれています。加害者にとっては、自分がこれから行う行為を「被害」と認識させないためのプロセスなのです。

写真はイメージです ©iStock.com

恋愛だと思い込まされるケースや数年後に被害に気が付くケースも

 ちなみにこの女子生徒のように、手なずけられる形で性行為に及んだ場合、それを“同意がある行為”だと思い込まされることは少なくありません。そのため、被害が発覚しても「(加害者とは)付き合っている」「これは恋愛なんだ」と話すこともあります。

 また、グルーミングによって「自室についていった自分が悪かったんだ」などと思い込まされたことにより、何年も経ってからようやく「あれは性暴力だったのだ」と被害に気がつくケースは少なくありません。

 さらに、性暴力を受けた被害者が、のちに自傷行為のような強迫的性行動を繰り返すようになることは、臨床ではよく見られます。このメカニズムについては拙著『セックス依存症』(幻冬舎新書)で詳しく述べているので、興味のある方はご一読ください。

 ここまで見てきたように、本来子どもにとって安全であるべき家庭や学校、塾という場所でもグルーミングは行われます。このことが知識として多くの人に広まれば、周囲からの効果的な介入など、未然の防止策を社会全体で築いていくことができるのだと思います。