グルーミングの加害者の手口とは
もうひとつ、面識のある関係でのグルーミングの例でした。
これは機能不全家族、ヤングケアラー(本来は大人の役割と想定されているような、家事や家族の世話などのケアを日常的に行う18歳未満の若者)、父親の男尊女卑的価値観、性依存症、そしてグルーミングと複数の問題が絡み合ったケースですが、ここではグルーミングの加害者の手口に焦点を絞って論じていきます。
まず特筆すべきは、Dのカウンセラー顔負けの傾聴力です。「受容・傾聴・共感」の3要素を総動員しながら話を聴いています。家庭での悩みを抱えながらも、なかなか周囲の大人たちに相談できず、たとえ友達に相談しても「大変だね」と片づけられてしまう。そもそも当時は「ヤングケアラー」という言葉すらなく、女子生徒自身も自分の置かれた状況が公に相談すべき問題であるという認識すらありません。
そんな寄る辺ない女子生徒にとって、自分の話を否定せずに最後まで聴き、具体的なアドバイスもくれるDがとても心強い存在になったのは想像に難くありません。
孤立した子どもに釣り糸を垂らす
顔見知りによるグルーミングでカギとなるのが、子どもの孤立感です。
加害者は、孤立している子どもを巧妙に狙います。家庭で日常的に「お前はダメだ」と叱責されていたり、ほかの子どもと比べられて「ありのまま」であることを否定されている子どもは、自己肯定感が著しく低下しています。そのような場合、子どもたちは「こんな自分は価値のない人間だ」などと自らを否定し続けていきます。この女子生徒も、父親から男尊女卑的な価値観を押しつけられ、そこから外れるような行動をしたときに激しく叱責されていました。
そんな孤立した状態の彼らの前に、自分の話を否定せず聴いてくれるやさしい大人が現れたらどうでしょう。この場合、Dはよき理解者であると同時に、女子生徒にとって英語を流暢(りゅうちょう)に操れる「憧れの人」でした。家にいたら家事やきょうだいの世話をしなくてはならない。少しでも家事を怠ると父親から叱責される……そんなつらい現実から逃げたい一心で、女子生徒は中学卒業後、すぐにDとの性行為に応じたといいます。