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 また、個人も企業も債務削減に奔走した結果、経済全体が縮小していくという、日本が陥った「バランスシート不況」についても、中国には利下げという対策の余地が残されている点も異なる。つまり、地方や郊外の不動産が大きなダメージを受けるのは免れられないが、中国の不動産市場全体が今すぐ致命的な打撃を受ける可能性は低い。

高齢化がもう一つの爆弾

 問題は猶予があるうちに、経済を不動産に依存しない、新たなスタイルに転換できるか、だ。習近平(シージンピン)総書記は就任以来、イノベーションの重要性を唱え続けてきたが、一方で不動産依存を克服する気配はない。その象徴が習近平総書記肝いりの国家プロジェクト、雄安新区だ。北京市南西約100キロの田舎に、ゼロから近代都市を作り上げる計画だ。

※写真はイメージです ©iStock.com

 ハイテク企業や研究機関が集まる最新スマートシティとの触れ込みだが、結局は田舎での不動産建設にほかならない。現地を訪問すると、高層マンション、オフィス街、コンベンションホールと箱物だけはそろっているが、人影は皆無のゴーストタウンだ。一時は企業の進出ラッシュも伝えられたが、看板だけ置いて人はいない会社がほとんどだ。イノベーション駆動を口にするのはたやすいが、骨の髄までしみこんだ不動産と投資に依存した発想と経済体質を変えるのは容易ではない。

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 転換に手間取れば、もう一つの爆弾である高齢化が迫ってくる。2022年、中国の出生者数は1000万人を割った。2016年の1883万人からわずか6年でほぼ半減。出生率はすでに日本を下回り、日本化どころか「日本の優れた対策に学ぶべき」という声まで上がっている。この世代が結婚適齢期にさしかかるころには住宅需要が劇的に落ち込むことは確実だ。残された時間に抜本的な改革ができるか、厳しい試練が待ち受けている。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。