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作家・万城目学が語った“直木賞との関係性”「今までは横にいて、一緒にぼやき漫才をしてくれていたけれど…」

直木賞受賞・万城目学さんインタビュー

2024/01/21
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――その時の会話がものすごくいいんですよね……。「八月の御所グラウンド」は、大学生の朽木君が猛暑の夏休み中、先輩から強制的に草野球大会の凸凹チームに参加させられる話です。

万城目 構想段階から、編集者の人たちにざっくり内容を説明したら、必ず「その話は絶対いい」と言ってもらえて、異様に反応がよかったんです。あとはいかにわざとらしくないように、安いお涙頂戴に近づかないようにするか、ということを考えて書きました。

御所グラウンドの思い出

――万城目さんも御所グラウンドで草野球をやったことがあるのですか。

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万城目 学生時代に、ほんの1、2回ですけれど。『巨人の星』で星一徹が飛雄馬に「1、2、3と数えて打て」と教えていて、それをやったらほんまにヒットを打てたんです。それを小説の中ではシャオさんという人が忠実にやっています。

――御所グラウンドもそうですが、朽木君とシャオさんが行くパスタ店「セカンドハウス」も実在するんですね。

万城目 そうそう。メニューも本当にあるものを書いています。

――「八月~」を書き上げた時、いつもと違う手応えがあったそうですが。

万城目 明らかにこれまでとは違う何かがあったんです。でも、あれはもう二度と手に入らない感覚です。「こう書けばいいのか」と思った時にすぐメモをとればよかったんですが、そうしなかったので翌日には全部忘れていました。無念です。いつかまた会いたいです。

作風の変化のきっかけ

――万城目さんは日常の中に非日常が紛れ込む話をお書きになりますが、デビュー前の学生時代に書いていたものは私小説っぽいものだったとか。どうして作風が変わったのですか。

万城目 大学生の頃は、学生が講義に出て、バイトをして、恋に破れてという、本当にどうでもいい話を書いていました。そういうものを新人賞に応募しても一次選考も通過できなかったので、一回、自分とはまったく重なるところのない、冴えない中年の貧乏探偵の話を書いたんです。

©文藝春秋/撮影:松本輝一

 若者のウジウジした悩みとは関係ない、自分語りしようにも、どこにも共通点がない主人公にしたところ、一気に好きなこと――、無駄な話、余計な話、ウソの話を好き勝手に書けると発見しました。

 そこに到達するまでに7年くらいかかりましたけど、「こっちの路線のほうがいいんちゃうか」と思って『鴨川ホルモー』を書いたら突然デビューできたので、その後はこの作風で行こうと迷わなかったです。

 それでもやっぱり反抗期というか、あれこれ試したいお年頃だったというか、真面目な歴史小説へのあこがれから『悟浄出立』(新潮社)、全力で変テコ・ファンタジーにのめりこんだ『バベル九朔』(KADOKAWA)などを書いたりもしましたが、今はその時その時で一番いいと思うものを書けばええわ、と思っています。