メディアミックスに対して原作ファンが望むもの
中には、映像化の際に原作のエッセンスをまるっきり変更してしまう作品もある。だから原作の要素を変えないだけ、「ダイジェスト版」でもいいのかもしれない。しかし、だ。観客が映像化に求めているのはそんなことではない。
原作が映像化されたときに、読者や観客が望むもの。それは、「メディアミックスによって、よりたくさんの人に届き、『こんなに面白い物語があったんだ。知らなかった!』と言ってもらえる作品になること」だ。
『名探偵コナン』『テニスの王子様』『あさきゆめみし』…メディアミックスの成功例
たとえば『名探偵コナン』(青山剛昌/小学館)はアニメになったことで、たくさんの人に「名探偵コナン」というキャラクターの魅力が伝わった。『テニスの王子様』(許斐剛/集英社)はミュージカル作品として舞台化されたことで、「テニミュ」としても親しまれるようになった。『源氏物語』は『あさきゆめみし』(大和和紀/講談社)としてマンガ化されたことで、より多様に古典の魅力が知られるようになったのだ。原作ファンがメディアミックスに求めているのは、このような現象だろう。
もちろんメディアミックスされた結果、原作の要素を削ぎ落としたり、あるいは逆に原作にない要素を足したりすることは多々ある。たとえば『あさきゆめみし』を読んだ後に『源氏物語』を読むと「えっ、この場面って大和和紀さんの創作だったの!?」と驚く(筆者もそうだ)。舞台版『テニスの王子様』は当初、原作に登場する女性キャラクターを登場させなかったことで知られている。
このような改変ゆえに、原作ファンからしたら「やっぱり原作が一番だ」と思うこともあって当然だろう。しかし、たとえそうであっても、メディアミックスによって、たくさんのファンを掴み、それゆえに原作の価値も、楽しめる期間も増える――それこそがメディアミックスの理想であるはずなのだ。
だからこそ、映像化にあたり「長いストーリーの要素だけを紹介する、ただのダイジェスト版」になってしまうのは残念だ。それではなかなか新しいファンを掴めないから。
さて、そのような意味で映画『ゴールデンカムイ』はひとつの映像化の成功例になった。なぜか。
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