ペットオークションは多くの母体によって運営されていて、規制を厳しくすると別のオークションへ流れてしまうのだという。
上原氏が違反状態を注意しても「免許は更新しない。廃業するつもりだ」と開き直る高齢ブリーダーもいる。
「規制遵守への意識を高めようにも、入れ替わりが激しいので難しい。オークションに参加するブリーダーは1年で25%が入れ替わる。今いるブリーダーの中にはペット需要の高まりで、コロナの時期に参入してきた者も多い」
コロナ禍で、犬や猫の平均落札価格はコロナ禍前の約3倍近くに上がった。ところがペット需要が一段落したことで、値段はコロナ前を割り込む水準まで下がり続けている。
新しい規制でブリーダー1人当たりが飼育できる頭数が制限されたこともあり、高く売れなければ儲けが出ないケースもあるという。上原氏は「廃業するブリーダーが増えてくるのはこれからだ」と言うが、廃業が増加すれば繁殖引退を余儀なくされて路頭に迷う犬猫が大量に発生することも予想される。
規制によって、ケージの買い替えなど設備投資も必要になった。
「最低でも200万円、私が聞いた中では4億円近くかかったというブリーダーもいる。業界全体では409億円ほどの支出があった。借金をして、これから返済できなくなるブリーダーも出てくる」
「調査が行われたが、どうせ1回だけだろうと思っている者も多い」
ただオークション業界全体として動きは鈍い。その理由の1つが、監督官庁である環境省から明確な規制ルールが提示されていないことにある。
「国も環境省も行政からも、基準になるようなものは何も出ていない。『56日』という規制を作っただけで後は何もなく、検討もされてこなかった。今回、ようやく調査が行われたが、どうせ1回だけのことだろうと思っている者も多い。行政が何もしなければ、みんな楽な方へいってしまう。オークション協会としては独自に作ったルールで規制していくしかない」
動愛法改正に至るまで、実は環境省は「56日」規制に乗り気ではなかった。
「56日」という日数の根拠を環境省は1億円以上かけて調査したが、『親兄弟から引き離す日齢と問題行動の発生の関係性は証明されなかった』という結果を発表している。
「ペット業界は、それまで7週齢(49日)でのルール作りを働きかけていた。日数と問題行動の関係性が証明されなかったなら、7週でも8週でもいいのではないかと思ってしまう。ブリーダーたちもみんなこの結果を知っている」