平成初期以降に低迷が続き、「失われた30年」とも呼ばれる日本経済。その背景にあるものとは何か、MFA代表取締役の石井光太郎氏と、一橋ビジネススクール特任教授の楠木建氏が語り合った。

◆◆◆

「失われた30年」から脱却するためには

 楠木 「失われた30年」と言われるたびに思うのですが、普通、それだけ長期に亘り経済が低迷したら、社会は荒廃します。30年も失い続けられるのは日本の特殊能力と言ってもよい。

 石井 確かにそういう見方も出来ますね(笑)。

ADVERTISEMENT

楠木建氏 Ⓒ文藝春秋

 楠木 社会が荒廃しないのは、なんだかんだ言って日本人が真面目に働く国民性だからでしょう。問題は、その勤勉さの上に、経営者たちが胡坐(あぐら)をかいてしまったことにあると思います。「企業」という言葉には、「企(たくら)み」という文字が入っています。会社はもともと、何らかの企みを実現するために作られたはずです。ただ、この30年間、多くの会社で本来の目的である、企みが失われていったのではないでしょうか。

 石井 私も会社から能動的な主体性が失われてしまったと考えています。「こういう事業をしたら面白いんじゃないか」「そのためにこの会社はある」。そうした原点が多くの日本の会社から失われかけている。

 株主に「成長しなさい」と言われて、会社はすぐ成長できるものではありません。成長の原点は「上手くいくかわからないけれど、やってみよう」というエネルギーです。そのエネルギーの源を、会社と株主のディスコミュニケーションが、せき止めてしまっているのではないか。それゆえにこそ私は、会社と株主の建設的な対話(エンゲージメント)が重要だと思うのです。

 楠木 日本の会社が継続的に成長し、「失われた30年」を脱却するためには、会社の背中を押して新しい冒険に出ることを促すような株主のエンゲージメントがいまこそ求められている、ということですね。

 石井 金融庁が日本版スチュワードシップ・コード(機関投資家の行動規範)を制定したのは10年前の2014年。それには、機関投資家に対し「会社側とエンゲージメントを行い、中長期的視点から投資先の持続的成長を促すことを求める」旨が記されています。機関投資家も要求を突きつけるだけでなく、会社に寄り添うことの重要性は認識しているはず。ところが、実際には対話が上手くいっていない。経営者側に問題が多いのも確かですが、株主側にも責任がある。対話が成り立つために何が必要なのかという問題に、もっと正面から向き合うべきなのです。