山田 そうですね。この本に出てくるテレビ屋さんたちの考え方は、少なくとも僕はすごく共感できる部分はあります。やっぱり最終的に「わかってもらってなんぼや」「勝ってなんぼや」「数字取れてなんぼや」「俺らはやっぱり売れてなんぼや」という考え方って、ともするとあまりよく思われない考え方かもしれませんが、勝負して、俺らは一発当てたんやという気持ちはありますね。その気持ちが高まって、みんな変な生き物に変わっていったという(笑)。ちょっと斜に構えていたら、俺らはコツコツと正統な漫才の道でやっていくんやということになりますもんね。売れなくても、板の上に立ち続けるんやという。いや、もちろんそれもいいんですけど。僕はやっぱり『全部やれ。』のほうに共感する部分はありましたね。
結婚式は一発屋の芸が生まれる場所
戸部田 『全部やれ。』に出てくる90年代日テレの人気番組『SHOW by ショーバイ』とか『マジカル頭脳パワー!!』とかはご覧になってましたか。
山田 親父の教育方針でテレビがない時期があったんで、あんまり見てないですね。知らないわけではもちろんないんですけど。だからこの本を読んでびっくりしましたよ。クイズの回答席が、画角に全部収まるようにデザインされてるとか。セット全体よりも回答席がどう画面に収まるかが大事なんだと。
戸部田 じつは僕もそのお話を聞いて「へえ」って思いました。見てても、言われないとなかなか気づかないですよね。
山田 だからテレビ好きの方が読んでも面白いですよね。豆知識的な部分もたくさんある。
戸部田 豆知識的なことでいえば、僕は『一発屋芸人列伝』を読んで結婚式ってけっこう大事だなって、思いました(笑)。
山田 結婚式は一発屋の芸が生まれる場所です。やっぱり芸の源泉って余興なんやなと思いましたね。アトラクション的な芸というか、一般の人が実際にやってみることができる芸やから、消費されるのも速い。やっぱり、企業の忘年会で「ちょっと今年、和牛の漫才やろうか」ってならないでしょ(笑)。
戸部田 難しすぎる。
われわれの芸は、簡単なのか?
山田 そこなんですよ。今、難しすぎると言ったでしょ。確かにそうなんです。和牛の漫才のマネするのは難しいけど、じゃあ、われわれの芸が、簡単なのかという話になっていくんです。企業パーティーの営業に呼ばれて、一発屋と呼ばれる人のコスプレをして、芸を披露するシロウトの人を山ほど見てます。まぁ、ひどいですよ、それは(笑)。格好はマネできるけど、われわれの芸にもちゃんと言い方とか、間(ま)とかがある。だから、そういう悔しさもあって、この本ができたという部分もありますよね。
戸部田 そういう意味でもHGさんの「やってることはずっと面白い。ただ、皆が“知り過ぎてしまった”だけ」という言葉が、もうすごい響く。
山田 ほんとに、HGさん、いいこと言うなあと思った。で、それを言わせてしまったし、書いてしまった僕は、ちょっと罪を感じる。本来なら、芸人がそんなことを言うべきじゃないし、HGさんも言うタイプでもないんですけど、やっぱり、あの熱い思いで言ってくださったというHGさんには感謝ですよね。『全部やれ。』を読んでても同じことを思いました。ワイプの発明のくだりとか、テロップの使い方だとか。あれ、お茶の間の人はわかってないですもんね、基本的には。で、わからんでええ。そういう精神がやっぱりテレビ屋さんたちの中に流れてる。だから、みんなそれぞれ、演者と、もちろん次元とかも立場も違いますけど、とにかくわかりやすく、とにかく見やすく、面白く、パッケージ化していく作業を懸命にやっている。