3月17日付朝日夕刊は「捜査足ぶみのスチュワーデス殺し 私はこう推理する」という記事を載せた。「推理作家・松本清張氏」は「スチュワーデスになってからの友達が犯人ではないか。彼女の職業から日本人ではなく、外人ではないかとも考えられる。犯行の動機は愛欲のもつれだろう」と推理。「推理作家・菊村到氏」は「男は若くはない。女にふられた恨みから、というのが私のカンだ。これもカンだが、殺し方からみて外人ではなさそうだ」と逆の見方を示した。

朝日は作家らに事件を推理させた

なぜ捜査は難航?

 そして3月27日付毎日朝刊は「カベにぶつかる捜査陣 複雑な男友達」の見出し。「早期解決が予想されていたのに、なぜ捜査は難航しているのだろうか」と、「捜査を阻むカベ」として3点を挙げた。一つ目は、

〈1. 出足の遅れ 遺体発見時、高井戸署は睡眠薬を飲んで入水したと簡単に自殺と決定。現場検証も身元照会もずさんで、捜査一課と鑑識が急行した時は、現場は全く荒らされていた。捜査本部が置かれたのは2日後。捜査は完全に出遅れた〉

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 これには一応理由もあった。このころ、警視庁は多忙を極めていた。4月19日付朝日社会面トップの「『非常体制』昨夜スタート」の記事によると、当時都内には強盗殺人などの捜査本部が6つ、ピストル傷害の準本部が1つ設けられており、警官は休日を返上して犯罪防止体制を強化していた。自殺の疑いのある女性の死亡に力を入れる余裕がなかったのかもしれない。毎日の記事は続く。

〈2. 分からぬ動機 深い関係の男を訪ねたか、偶然会ったかして、せがまれるまま断り切れずに引き回された挙げ句、殺されたという見方もあるが、動機は推理すら難しい〉

〈3. 聞き込みが難しい 武川さんはカトリック系の学校卒業。その後も厳格な環境にいた。そのため、武川さんの同僚にも神父や上司の立ち合いがなければ話ができない。BOACも一切ノーコメント〉

捜査は難航していると思われた(毎日)

 この記事は2つの点で興味深い。1つは「分からぬ動機」でこう書いている点。「13日から香港便乗務の矢先だけに、密輸組織に誘われ、断ったが、何か秘密を知っていたため消されたのではないかという説もある」。この推理は後々まで事件に付きまとう。

 もう1つは末尾の記述。「解剖結果から最近、男関係があったことがはっきりしている。犯人は武川さんの秘めた愛人、それも教養のある自家用車族、というのが(捜査員の)大半の意見だ」。記者は警察か慶応大から解剖結果を聞き込んでいたと分かる。