なぜ備蓄米放出はかくも遅れたのか

「農林族議員も農水省も、JA(農業協同組合)の顔色を窺っているのです」

 そう指摘するのは、元農水官僚でキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹だ。

「昨年の夏、23年産米が猛暑の影響で40万トン足りなくなった。この時点で備蓄米を放出するべきでした。しかし農水省は『卸業者が米を隠している』旨の根拠のない主張を展開し、江藤拓農水相も省の見解に従って『どこかで米がスタック(滞留)している』と言っていた。農水省が米不足を否定し備蓄米放出を渋ったのは、米価が下がってJAが反発するのを恐れているからです」

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江藤農水相は農水省の言いなり

 22年度のJAの組合員数は正組合員が393万人、准組合員が634万人。農林族議員にとって、JAが貴重な票田であることは言うまでもない。じつは、石破政権の中枢を占めているのが、この農林族議員たちなのだ。

「石破首相だけでなく、政権ナンバー2の林芳正官房長官や党を支える森山裕幹事長、坂本哲志国対委員長は皆、九州や中国地方といった農業県選出の農水相経験者です」(前出・記者)

 さらに、山下氏が「理解に苦しむ」と“名指し”する農林族議員がいる。石破氏の懐刀である小野寺五典政調会長だ。

“懐刀”小野寺政調会長

「選挙区には米どころの宮城県気仙沼市が含まれ、水田農業振興議員連盟会長でもある。総裁選の決選投票では石破氏に投票し、野党との予算協議においても石破首相から全幅の信頼を寄せられている。そんな小野寺氏ですが、じつは減反政策の推進論者なのです」(同前)

 減反は、現在の米不足の根本的な原因だとされる。政府が毎年の生産目標を決め都道府県に配分する減反政策は18年に廃止されたが、その後も農水省は生産量の目安を示し、主要食米の代わりに大豆・麦・飼料用米などを作る農家に補助金を支給して、米の生産量を減少させてきた。つまり、事実上の減反政策が続いてきたのだ。こうして米の生産を需要ギリギリまで抑えることで、高水準の米価が維持され、JA側もこれを歓迎してきた。

 これに関し、小野寺氏は過去に〈全国的に主食用米から飼料用米などへの転換に協力してもらう必要がある〉(日本農業新聞 20年11月4日付)などと、減反推進発言を繰り返してきた。山下氏が批判する。