ホテルに籠って人事構想

 社内外から逆風に晒された日枝氏は一転、港氏に「何をやってんだ!」と怒りをぶつけたという。そして1月23日、港氏と嘉納会長による社員説明会が開かれる。それは、さながらクーデターの様相を呈していた。

「全役員、総退陣! 徹底検査! 年寄ばっかりが役職に付いて、生活できないです。『フジテレビ、真剣だな』って思われるようなことしましょうよ」

 ある社員が決起すると、会場では拍手が湧き起こる。さらに、坪田譲治コンプライアンス推進室長が質問に立ち、悲痛な思いを訴えた。

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「12月14日土曜日夕方です。買い物して帰ってきたときに『宅配便のお兄ちゃんにしたら身軽だな』という人がいました。週刊文春の記者でした。記者に私は概要を聞きました。衝撃的な概要でした。なんでこんなことが1年半、放置されていたのか。本当に僕は悲しかったです。港さんも大好きな兄貴分だし、上司です。なんで、部下である私に相談してくれなかったのか」

 港氏は俯き加減で「よく分かりました」と絞り出すのが精一杯だった。

社長を辞任した港浩一氏 ©時事通信社

 それから4日後。フジ社内で行われた「やり直し会見」では、フリーランス含め、437人のメディア関係者が一堂に会した。会見の冒頭、港氏と嘉納氏の辞任が伝えられたが、質問が集中したのは日枝氏の不在に関するものだった。

――これだけ長い期間、日枝氏が会社にいることについてどう思うのか。

「日枝は経験知見をお持ちです。経営判断していくときにお知恵を借りたり、教えていただいたりする。先輩ですから当然のことだと思います」(嘉納氏)

 メディア側が日枝氏に関する質問をするたび、歯切れの悪い回答に終始し、日枝氏による説明を求めると、「本人次第だと思います」と繰り返す。約10時間半に及んだ会見中、彼らはフジの最高権力者を“外敵”から守り抜いたのだ。

フジテレビ会長を辞任した嘉納修治氏 ©時事通信社

「俺が顔を知らない奴は局長以上にしない」

 日枝氏が院政を敷く背景には、長年掌握する社内の人事権がある。

「俺が顔を知らない奴は局長以上にしない」

 そう公言して憚らない日枝氏が人事の構想を練るのは毎年春先のこと。フジが主催する「フジサンケイレディスクラシック」。役員たちが集まる川奈ホテルの一室に籠った日枝氏は、幹部らの顔を思い浮かべ、考えを巡らせる。

「キーワードは忠誠心。裏を返せば、自分を脅かしそうな奴は飛ばすということ。歴史を紐解けば、07年に就任した豊田皓元社長や01年に就任した村上光一元社長は日枝氏の後継者になり得たが、自分を追い出す可能性があると見て、最後は完全に外されてしまった」(前出・フジ幹部)