2025年に発売された月刊文藝春秋の膨大な記事の中から、好評だった特集記事を紹介します。
SNS全盛で、繋がりすぎる現代にウンザリなあなたへ、多忙な著名人がアドバイスする特集「つながらない生活新様式」(7月号)。臨床心理士・東畑開人氏の記事から一部紹介します。
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心の健康や回復の根源は「つながり」にある。心理士として真剣にそう考えていて、実際に本や新聞にそのようなことを書いてきたし、臨床でもその方向性で介入することが多い。
しかし、今回のお題を与えられて考えてみると、私の日常の基底部分は「つながらないこと」によって組み立てられていることに気づく。大学を辞めて、一人職場で仕事をするようになったのもそうだし、趣味は本を読むこと、ランニングすること、昼寝することで、まるで隠者だ。
スマホゲームは「隠者的」なのか?
さて、そんな隠者生活の中にも反隠者的営みが存在している。スマホゲームである。時期によって、野球とか、将棋とか、シューティングとか、ゲームの種類は変わっていくにせよ、私の生活には常になんらかのゲームがある。課金こそしないと決めているが(堪えきれずしてしまうこともあるが、その場合には他のゲームへと乗り換える)、隙間時間にちょっと嗜むくらいの心構えでいたはずが、実際には無限に時間を溶かしている。
当たり前だが、スマホゲームをしているとき、私は一人だ。隠者的に見える。しかし、実を言うと、そのときの私は「つながらないこと」の中にはいない。ここが隠者的趣味である読書やランニング、昼寝とは違うところだ。私はゲームとガッチリつながっている。ゲームが与えてくる刺激に、反射神経だけで応答し、頭は空っぽになっている。心はゲームに飲み込まれ、我を失っている。
ここに「つながらないこと」のヒントがある。つながっていないとき、私の頭にはノイズが満ち溢れている。本を読んでいるときやランニングをしているとき、空想や追憶、なんなら邪念が沸き上がってくる。昼寝だって、そうだ。そのとき、私は夢を見る。それらはすべて、心の奥からもたらされるものだ。
これに対して、ゲームはノイズを消してくれる。何も考えないで済むようにしてくれる。同じようなことが、SNSにも言えるし、ショート動画にも言える。とにかく疲れているときに、スマホをいじってしまうのはそのせいだ。頭の中がノイズに満たされているときに、スマホが絶え間なく与えてくれる刺激が、あふれ出る想念を強制終了してくれるのである。その意味で、最強なのが人間とのつながりだ。朝、家族と喧嘩をして、頭の中がチクチクやイライラでいっぱいになっているとき、通勤中に友人とスマホでメッセージを交わしたり、職場に着いて同僚と世間話をしたりしていると、ノイズは和らぐ。気分が切り替わり、気持ちがとり直される。
※本記事の全文(約1700字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(東畑開人「スマホゲームに我を失う」)。
■スペシャル企画「つながらない 新生活様式」
「262の法則」発見▼羽生結弦
人生のプライオリティを決めた▼星野佳路
アプリ、みじん切り、遠回り▼佐野亜裕美
荒れ果てた庭で闘う▼國分功一郎
独り仕事もカレンダーに記入▼安達裕哉
SNSはアバターにやらせる▼橘玲
返信が読書を妨げる▼三宅香帆
スマホを置いて3泊4日旅▼ふかわりょう
頑張って返信しない▼角田光代
劇場空間で頭を活性化する▼冨山和彦
だから僕はカフェに行く▼鈴木俊貴
スマホゲームに我を失う▼東畑開人
誠実な社交を取り戻す▼千葉雅也
店じまいのテクニック▼朝井リョウ
「気」のいい場所に行く▼鈴木おさむ
家にパソコンを置かない▼小島秀夫
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