オフィスワーカーが行き来する東京・港区の三田に、忽然と建つ異様な姿のビルがある。なかなか完成しなかったことから、“三田のサグラダファミリア”とも呼ばれた。“ここに在ります”という意味を込めた「蟻鱒鳶(ありますとんび)ル」。このビルを建てた建築家・岡啓輔(けいすけ)氏を訪ねた。

仲間とともに造りあげた20年
総勢100人以上がビルの建築を支えた。今回そのうちの一部が集った。

右から
馬野(まの)ミキ:コンクリートの打設、片づけ
相馬丘(きゅう)
中村未歩:窓枠の溶接
木村奈緒:雑誌の編集
岡啓輔:建築家
相馬観(かん)
細倉一乃:窓のモルタル埋め、シーリング
山本恭子:石像制作
アリマタカシ:窓枠の溶接
このビルは僕ひとりで造ったわけじゃないんです。
「じゃあ、私たちが住む家を造ってよ」
岡啓輔氏の妻の一言が、このビルを建てるきっかけとなった。岡氏は、地元・福岡や岐阜で建築を学び、各地の建設現場をわたり歩いた。しかし30代半ばに体を壊し、意欲を喪失。その時、妻に突然、言われたのだった。
2005年に蟻鱒鳶ルに取り掛かり、その際、一番こだわったのがコンクリートの配合だ。せっかく建てるなら200年、300年保つ家にという思いで、コンクリート打設後、2~3週間水をかけて養生し、強固なコンクリートをつくった。自由な発想で黙々と建てていく岡氏のもとに、協力する仲間が次第に増えていった。
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source : 文藝春秋 2025年11月号

