10月13日の閉幕に向け、万博は予想を上回る賑わいを見せている。来場者数はこれまで2500万人を超え、9月から1日の来場者数が20万人を超える日が続く。目玉は、なんといってもパビリオンだろう。人気パビリオンが並ぶなか、今回、編集部はカナダ館へ招かれた。
強い日差しのなか、白く立体的なカナダ館はひときわ目を引いた。メイプルリーフを思わせる赤の英字と地面の爽やかな青色とのコントラストも印象的だ。これは今も昔も変わらず繰り返される大自然の「再生(regeneration)」をコンセプトに、凍った川の水が流れ出す「水路氷結(ice Jam)」という自然現象をイメージしてデザインされている。大屋根リングの上から見ると、それが一目瞭然だ。


早速、パビリオンへ入っていくと、タブレット端末を貸し出された。若干重いものの、取っ手が付いていて持ち運びやすい。薄暗い部屋に通され、ガイドの声が響いた。
「私たちはいま、セント・ローレンス川の底にいます。長さは約1200キロに及び、カナダにとって水路や水源となる大切な河川です。お持ちのタブレットを天井にかざしてみてください」
見上げると天井には川面のような映像がゆらゆらと映し出されている。そこにタブレットを向けると、しばらくしてモニターに小さな魚が映し出された。
「おおーっ」
「こっちには何匹もいる!」
モニターに映ったのは川に生息するサーモンの幼魚だという。タブレットを向ける場所によっては流氷も現れた。時折、流氷にぶつかるような振動が取っ手に伝わってくる。このようにAR(拡張現実)でカナダのダイナミックな自然を体感できるのが当館の魅力だ。
氷山の模型が展示される部屋もあり、氷山にタブレットをかざすとオーロラや犬ぞりの画像が映し出された。場所を変えるたびにカナダの自然や暮らす人々の様子などいろいろなシーンに触れられ、犬の鳴き声が聞こえたりもする。まるで宝探しをするかのように、大人も子どもも夢中になって歩き回った。



また、今回は万博を機にカナダから観光局一行が来日した。カナダにとって観光業は主要産業のひとつ。日本を含めたアジア地域からの旅行者を獲得するために、旅行会社やプレスとの交流が図られた。
カナダ観光局のマーケティング最高責任者、グロリア・ロリー氏によれば、「昨今の旅行者は、地元の人々の日常生活に浸ることができるものを求めている。現地の暮らしの中にいるかのようなありのままのカナダや、本物の体験を渇望している」という。続いて、各担当者から2026年に北中米で共催されるFIFAワールドカップのバンクーバーでの関連イベントや、自然が多い同国の知られざる州立公園など、カナダならではのスポットが次々と発表された。



なかでも驚いたのは、カナダ先住民の文化に触れるツーリズムだ。イヌイットなど多様な民族が住むカナダでは、先住民との共存を目指し、森の中で先住民から生きる知恵や技を聞いたり、犬ぞりや狩猟を経験しながら相互理解を深めるツアーに注力している。カナダはいち早くこのジャンルに取り組み、カナダ先住民観光協会によれば、海外からの旅行者の約68%がこのツアーに興味があり、2030年までに年間6400億円に及ぶ収益を見込んでいる。

また、中国や韓国、日本の有識者によるスピーチも行われた。日本からは脳科学者・茂木健一郎氏が登壇し、「15歳のとき、初めて訪れた海外がカナダだった」と自身の経験を語った。バンクーバーで過ごした日々はホストファミリーとの絆が深まり、この経験が脳科学者としてのキャリアにも繋がっている。「カナダは素晴らしい生きがいを得られる国だ」と振り返った。
デジタル社会が発展するなか、旅行は今後、リアルな充足感や没入感が一層求められる。人と自然の繋がりを得られるカナダは、今後も魅力的な旅先のひとつに挙げられるだろう。

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

