文藝春秋SDGsエッセイ大賞2025 グランプリ&優秀賞発表

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2015年9月、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。地球規模の課題解決のために17のゴールと169のターゲットが掲げられた。それは世界が一丸となってめざすべき「未来のかたち」だ。3年前、文藝春秋はメディアプラットフォーム「note」とともに、SDGsを考えるエッセイ大賞をスタートさせた。そして4回目の今年、応募総数は28,000通を超えた。その中から選ばれたグランプリ1篇と優秀賞5篇を発表する。

『“いらない”と思っていたのは、僕のほうだった― 青海苔が教えてくれた未来への光』
気ままな船乗り@note界の港

「捨てていたのは、青海苔じゃなくてーー“未来をつなぐ命”だったのかもしれない。」そんな印象的な一文からはじまる、気ままな船乗り@note界の港さんのエッセイ。ある女性からの一言をきっかけに、価値観や行動が変わっていく姿を印象深く描いています。読者にあらたな視点をもたらした作品として、見事グランプリに選ばれました。

 受賞の知らせをいただいたとき、これまでの人生が静かに肯定されたように感じました。まるで、川で育った青海苔が、長い旅の果てに恩返しに帰ってきたようでした。迷いながらも書き続けてきた航海の先に、この港があったのだと思います。書くことを信じてきてよかった――そう思える瞬間でした。この機会をくださった皆さまに、心より感謝いたします。

気ままな船乗り@note界の港さん


積極的に語らないが、誰でも語れる環境がある社会
hidemi 新井秀美

空き家、空き施設を第二の拠点に!
いなか侍すげさん

子ども食堂の未来、わたしにできること
碧魚まり

そのキャップは山となり、ワクチンになる
ニッキカキタイ

“ありがとう”をもっと言える社会にしたい。
かね@健康サポート


文藝春秋SDGsエッセイ大賞2025選考会
暮らしのなかの気づきを言葉に。

「文藝春秋SDGsエッセイ大賞」も今回で第4回を迎えた。テーマは「未来のためにできること」。ふだんの暮らしのなかでの、ふとした「気づき」。それは未来にむけての「行動」へとつながっていく。


角田光代/作家
小林さやか/ビリギャルの本人 AGAL株式会社CEO
新谷 学/文藝春秋取締役 文藝春秋総局長

読み手の感情を揺さぶる“エモい”文章

――昨年の第3回SDGsエッセイ大賞には2万1830通の応募がありましたが、今年はさらにそれを上回り、投稿記事数2万8471通、投稿者数約1万人という数字になりました。毎年、この数字が更新されるというのは、大変喜ばしいことと思います。ご応募いただいたみなさまに、厚く御礼申し上げます。さて、審査員のお三方には、応募作品の中から厳正な審査を通過した35作品を読んでいただきました。本日は、その中からグランプリ1篇と優秀賞5篇を選んでいただきたいと思います。それではまず角田さんから。

角田光代
1990年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。2005年『対岸の彼女』で直木賞受賞。2021年『源氏物語』(全3巻)訳で読売文学賞(研究・翻訳賞)を受賞する。

角田 いいなと思う作品はいろいろありました。空き家問題を扱った「空き家、空き施設を第二の拠点に!」とか、捨てられていた青海苔を取り上げた「“いらない”と思っていたのは、僕のほうだった」とか。「“いらない”と思っていた~」は、文章も話の展開もうまいですね。

小林 わたしも「文章、うまい」って思いました。エモい文章ですよね。

――エモい? エモーショナルということですか?

小林 そう。なにか印象に残るというか、グッと読み手の感情が揺さぶられるような文章。候補作の中には、テーマはいいんだけど、わたし的に“エモさ”を感じないという作品もありました。

新谷 この「“いらない”と思っていた~」の中の〈捨てていたのは、青海苔じゃなかった〉という一文は、すごくいいですよね。立っています。今回はエッセイとしての読みごたえにも比重を置いて評価したので、高得点です。

――では、みなさんそろって推しているということで、「“いらない”と思っていた~」を今回のグランプリにしたいと思います。引き続き、優秀賞5篇に移ります。

共感を呼ぶ場面として生き生きと描けている

――角田さんが挙げておられた「空き家、空き施設を~」はいかがでしょう?

角田 地域として、空き家問題にすごく困っていると、よく耳にしますよね。これを書いている方は、空き家に困っているよって話じゃなくて、具体的な対策を考えているのがいいと思って◎にしました。

小林さやか
ベストセラー『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴著)の主人公。米国留学を終え、「日本人のマインドセットを変える!」をミッションに起業。

小林 わたしも、これ好きでした。具体的だったし。

新谷 「積極的に語らないが~」もいいと思います。ご高齢の韓国人とのやりとりが、共感を呼ぶ場面として生き生きと描かれていました。わたし的には“エモい”ものがありましたね。

小林 たしかに、「日本人ファースト」という考え方があまりに強調されるのは、ちょっと危険かなと思いますね。

――では「空き家、空き施設を~」と「積極的に語らないが~」、この2篇は優秀賞ということで。あと3篇ですね。

角田 わたしは「子ども食堂の未来~」を推します。前に政治家が「子ども食堂は誰でも行っていいんですよ」とか言っているのを聞いて、ものすごく違和感を覚えたんです。本当に資金が大変で、みんな手弁当で一生懸命やっているのに、お金が有り余っている人が遊びで食べにいくような場所じゃない、って。「大変なんだよ、本当に」と伝えたくて選びました。

小林 本来は、国がやれよっていう話じゃないですか。だけど、そんなことは言っていられない。目の前に子どもたちがいるからっていうのは、わたしもすごく響きました。

――ではこれも優秀賞ということで。

ふとした「気づき」を文章にすることの大切さ

角田 「“ありがとう”をもっと言える~」はどうでしたか? 内容的にはいいんですけど、これってSDGsのどれにあたるのかな、と。

新谷 すべての原点、根幹というか、SDGsの取り組みの、最初の一歩になるんじゃないかと思います。

小林 「そのキャップは山となり~」はどうでしょう。これもキャッチーな言い回しで、読みものとして面白いなと。

角田 わたしもこれ、いいと思います。知っていそうで、実は知らないことを教えてくれる気がして。

新谷学
1989年文藝春秋入社。『Number』『マルコポーロ』編集部などを経て、ノンフィクション局第一部長、『週刊文春』『文藝春秋』編集長を歴任。2023年取締役・文藝春秋総局長に就任する。

――では、「“ありがとう”をもっと言える~」と「そのキャップは山となり~」の2篇を優秀賞ということでいかがでしょう。これで優秀賞5篇が決まりました。ありがとうございました。では、最後に総評を。

小林 普段生活をしていると、なかなかSDGsに意識が向きづらいですよね。それを文章にするということは、新しい視点を得たり、考えたりするいい機会になると思います。

角田 応募作品を読んでいると、確かに新しい発見がありますね。今回もペットボトルのキャップがワクチンになるというのは勉強になりました。

新谷 4回目ということで、応募総数が増えただけではなく、作品のクオリティもどんどん上がってきているという印象です。次回も読む人の心を揺さぶるような作品を期待しています。

photo:Miki Fukano


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source : 文藝春秋 2026年1月号