史上初の7冠制覇をはじめ将棋界のあらゆる記録を塗り替え、今も盤上に生きる棋士・羽生善治(1970~)。朝日新聞編集委員の北野新太氏が見てきた稀代の勝負師の姿とは。

初めて会った日を覚えている。
16年前、将棋会館内で催された小宴の後、名刺交換をした。新しく担当記者になりました……と緊張しながら挨拶すると、羽生善治は無垢な笑顔を浮かべたまま、私が最も恐れていた質問を口にした。
「将棋はどのくらい指されますか?」
問われたのは頻度ではない。棋力である。正直言って初心者だったが、嘘をつくわけにもいくまい。
「ルールは分かります……」
すると彼は、雲ひとつない青空に煌めく太陽のような顔で「じゃあ充分じゃないですかー」と笑った。そして「では、宜しくお願い致します」と頭を下げ、颯爽と立ち去った。
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source : 文藝春秋 2026年11月号

