二つのタイトル戦から見えた将棋の未来
昨年、史上最年少で名人となった藤井聡太さんに豊島将之九段が挑んだ第82期名人戦は、今年の4月から5月にかけて行われ、藤井名人が4勝1敗で初防衛を果たしました。
第1局前日に豊島さんが「早い段階から互いに一手一手考えて指すような将棋にしたい」と報道陣に語った通り、今回の名人戦では、全ての対局で豊島さんが序盤から事前に入念に練られていたと考えられる手で、ことごとく「力戦(りきせん)」に持ち込んだことが強く印象に残りました。「力戦」とは、AIであまり研究されていない未知の局面から展開される戦いのことです。
とはいえ、このような展開になることは、ある程度、予想されていました。おそらく藤井名人も同様の予想をしていたと思います。
というのも、豊島さんは2022年ぐらいまでは、AIを駆使した膨大な量の研究に裏打ちされた棋風で知られ、「角換わり」や「相掛かり」といった、AIで研究が著しく進んでいる最先端の戦型を追究していましたが、2022年の王位戦で藤井さんに挑戦して敗れて以来、戦い方を大きく変え、今回の名人戦で展開したような「力戦」に「打倒藤井」の活路を見出そうとしていたからです。
藤井名人を倒すには、AIを使って最先端の戦型の研究を突き詰め、最善手を連ねていくか、AIによる研究がまだあまり進んでいない戦型での「力戦」に持ち込み、未知の局面を地力で戦うか、そのどちらかしかない。そのような認識が、プロ棋士の間では共有されつつあります。いずれも、藤井名人に持ち時間を消費させることで、自分の持ち時間を温存し、そのアドバンテージを得て、優勢に立とうという狙いがあります。
AIによる研究を踏まえた最先端の戦型による対局と「力戦」の違いは、カーナビを使ったオンロード・レースと、カーナビなしのオフロード・レースにたとえられます。
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source : 文藝春秋 2024年8月号