藤井名人には恐怖心がない

17世名人・谷川浩司の名人戦・叡王戦観戦記

谷川 浩司 棋士
エンタメ スポーツ

二つのタイトル戦から見えた将棋の未来

 昨年、史上最年少で名人となった藤井聡太さんに豊島将之九段が挑んだ第82期名人戦は、今年の4月から5月にかけて行われ、藤井名人が4勝1敗で初防衛を果たしました。

 第1局前日に豊島さんが「早い段階から互いに一手一手考えて指すような将棋にしたい」と報道陣に語った通り、今回の名人戦では、全ての対局で豊島さんが序盤から事前に入念に練られていたと考えられる手で、ことごとく「力戦(りきせん)」に持ち込んだことが強く印象に残りました。「力戦」とは、AIであまり研究されていない未知の局面から展開される戦いのことです。

 とはいえ、このような展開になることは、ある程度、予想されていました。おそらく藤井名人も同様の予想をしていたと思います。

谷川浩司十七世名人 ©文藝春秋

 というのも、豊島さんは2022年ぐらいまでは、AIを駆使した膨大な量の研究に裏打ちされた棋風で知られ、「角換わり」や「相掛かり」といった、AIで研究が著しく進んでいる最先端の戦型を追究していましたが、2022年の王位戦で藤井さんに挑戦して敗れて以来、戦い方を大きく変え、今回の名人戦で展開したような「力戦」に「打倒藤井」の活路を見出そうとしていたからです。

 藤井名人を倒すには、AIを使って最先端の戦型の研究を突き詰め、最善手を連ねていくか、AIによる研究がまだあまり進んでいない戦型での「力戦」に持ち込み、未知の局面を地力で戦うか、そのどちらかしかない。そのような認識が、プロ棋士の間では共有されつつあります。いずれも、藤井名人に持ち時間を消費させることで、自分の持ち時間を温存し、そのアドバンテージを得て、優勢に立とうという狙いがあります。

 AIによる研究を踏まえた最先端の戦型による対局と「力戦」の違いは、カーナビを使ったオンロード・レースと、カーナビなしのオフロード・レースにたとえられます。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
今なら初月298円で楽しめる

  • 今なら、誰でも、この価格!

    1カ月プラン

    キャンペーン価格

    初月は1,200

    298円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • こちらもオススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2024年8月号

genre : エンタメ スポーツ