史上最年少記録を塗り替えた強さの秘密
「羽生七冠の誕生以来ではないか」
藤井聡太の師匠である杉本昌隆は、弟子のデビュー戦に詰めかけた報道陣の数を見て、そう思った。
2016年12月24日。東京の将棋会館・特別対局室で、その歴史的な対局は行なわれた。棋戦は竜王戦。といっても、トップの渡辺明竜王が登場して頂点を争う、7番勝負の舞台ではない。位置づけとしては、予選の1回戦である。それなのに、なぜ注目されるのか。
対局者の1人は、76歳の加藤一二三(ひふみ)九段。長きにわたるキャリアの中で、82年に名人位に就くなど、数々の輝かしい実績を残した棋界の最長老である。54年、その加藤が最初に打ち立てた記録が、四段昇段、すなわち、プロ棋士デビューの史上最年少記録だ。その時、実に14歳7カ月。まだ中学生である。日本が神武景気で沸き立つ中、加藤は「神武以来の天才」として称賛された。
加藤の後には、谷川浩司、羽生善治、渡辺明と、わずかに3人だけが、中学生でプロ入りを決めた。いずれも早熟の天才であり、後の超一流棋士である。それでも加藤の記録は、抜かれることがなかった。
空前にして、絶後とも思われた記録は、14歳2カ月、中学2年生の少年によって、62年ぶりに更新された。それが対局相手の藤井聡太四段である。
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source : 文藝春秋 2017年03月号