「四つの大地震」が日本に迫っている

特集 10年後の東日本大震災

鎌田 浩毅 京都大学名誉教授・京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授
社会 サイエンス
地震、大火災、噴火、津波……。「密」をやめて被害を減らせ

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▶︎地球科学では「長尺の目」が必要とされる。その長尺の目で見ると、東日本大震災はまだ続いている
▶︎首都直下地震の問題は、強震動による直接被害だけではなく、複数の要因で巨大災害になること
▶︎富士山は若い活火山で、人間に置き換えてみれば小学生くらい。「育ち盛り」なので今後、必ず噴火する
鎌田浩毅new.s
 
鎌田氏

地球科学は「長尺の目」

 マグニチュード(M)9.0という地球でもめったにない規模の東日本大震災が発生して、10年の月日がたちました。人間にとっては決して短くない時間ですが、「まだ10年」と考えるべきでしょう。

 私の専門である地球科学では現象を100年、1000年という単位でとらえる「長尺の目」が必要とされます。その長尺の目で見ると、東日本大震災はまだ続いていると言えるのです。

 それを示したのが2月13日の夜に福島県沖で発生したM7.3の余震ではないでしょうか。本震があまりにも巨大だったため、余震が収まるには、さらに20年もの時間が必要だと見られています。

 地球科学には、過去の事例を検証することで未来を予測する「過去は未来を解く鍵」という方法論があります。これに従って検討すると、今後、4つの大災害が日本で発生することが予測できます。

1、M8級の東日本大震災の余震
2、首都直下地震
3、富士山の噴火
4、西日本大震災(南海トラフ巨大地震)

 2011年3月11日を境に、日本列島の地盤は「大地変動の時代」に入りました。これは9世紀に超巨大地震である貞観(じょうがん)地震が発生して以来、約1000年ぶりの事態です。これから地震や噴火などの地殻変動が数十年は続くと思われます。

 私はいたずらに脅威をあおりたいわけではありません。いまコロナ禍で「正しく恐れる」ことが求められていますが、それは災害対策でも同じです。では、4つの大災害で何が起きるのか解説していきます。

2月13日の余震
 
2月の余震で土砂崩れ

M8の余震が起きる可能性

 まずは東日本大震災の余震について解説します。2月の余震では、もっと被害が大きくても不思議ではありませんでした。地震のタイプは違うものの、M7.3は1995年の阪神・淡路大震災、2016年の熊本地震と同じです。そうならなかったのは、震源が海底55キロと深かかったため、地表へ伝わる揺れが弱められた上に、津波も発生しなかったからです。震度も最大で6強を観測しましたが、一般的な家屋へ大きな被害をもたらす1~2秒の周期の揺れが少なかったので、震度のわりに倒壊家屋は多くなかった。

 震源地の場所、震源地との距離、揺れ方(周期)などで、被害は大きく変わります。「M7.3といっても、この程度か」と数字だけを見て軽視しないことが重要です。

 今後もM7クラスの余震は発生するでしょうが、今回と同じような被害だとは限らないからです。

 さらにいえば、より規模の大きい余震が発生する可能性があります。これまでの研究によって、余震の最大規模は東日本大震災を起こした本震のMから1を引いたものだと分かっていますので、想定される最大規模の余震はM8.0。このクラスが今後20年もの間に起きる心配があるのです。

「本震で大きなエネルギーが解放されたのだから、もう大きな余震は起きないのでは?」と、しばしば質問されますが、残念ながらそうではありません。

 Mは1違うと、放出されるエネルギーは32倍ほど異なります。だから本震の32分の1でも十分大きいM8.0という地震が起きても、何の不思議もないのです。

 M8.0だと、東京でも震度5以上になるでしょう。震源地の位置によっては再び巨大津波が発生するので、岩手県から千葉県までの太平洋沿岸部では警戒が必要です。

 しかし現在は海岸沿いの防波堤が壊れて無防備な地域がありますし、最大1.6mも地盤が沈下している地域もあります。そうした場所では10年前より大きな被害となる可能性があります。防波堤は役に立たなかったという人もいますが、震災後の試算で津波のエネルギーを削いだことが分かっています。防波堤があったから、あの被害でとどまったのです。

 また余震について現在、危惧されているのは、地震が発生するゾーン(震源域)が南北へ広がることです。2004年にインドネシアで起きたスマトラ島沖地震(M9.1)は、東日本大震災と非常によく似た性格の巨大地震ですが、震源域が大きく南に広がり、そこでM7~8クラスの余震がいくつか発生しています。同じことが東日本大震災で起きる可能性は否定できません。

 東日本大震災の震源域は三陸沖の南北500キロ、東西200キロという広大なもので、宮城、福島、茨城各県の沖にまたがっています。

 そこから南に延びれば房総半島沖に達するし、北なら下北半島、十勝沖まで達します。国定公園のある南房総にはほとんど防波堤がないので大いに心配されます。実際、1677年に起きた延宝房総沖地震では高さ8mの津波が沿岸を襲った記録が残されており、最近の研究では17mに達した可能性が指摘されています。

 つまり私たちは、今後の20年で最大M8クラスの余震が発生すること、余震が東日本大震災の震源域よりも外側で起きる可能性があること、震源地によっては震動と大津波の両方に襲われること。これらを認識しておかなければなりません。

首都圏という「砂上の楼閣」

 つぎに首都直下地震について解説していきます。東京・神奈川・埼玉・千葉の一都三県で構成される首都圏には、日本の人口の3割が集中し、名目GDPも全体の32%を占めていますが、実は地震リスクの非常に高い地域なのです。

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source : 文藝春秋 2021年4月号

genre : 社会 サイエンス