ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、カリコー・カタリン(Karikó Katalin、バイオンテック上級副社長)です。
カリコーカタリン
写真はWikipediaから
新型コロナ・ワクチンの開発手法を生み出したハンガリー移民
コンピューターの父、フォン・ノイマン、世界的投資家のジョージ・ソロス、インテル創業者のアンディ・グローブ。数々の天才を生むハンガリーは「異星人の国」と言われる。コロナ禍に苦しむ人類は今また、ハンガリーが生んだ一人の天才によって救われようとしている。
日本を含む世界で始まった新型コロナのワクチン接種。自国産のワクチンを使う中国、ロシア等を除くほとんどの国で採用されているのが米製薬大手ファイザーと独ベンチャーのバイオンテックが共同開発したワクチンと、米ベンチャーのモデルナが開発したワクチンだが、どちらもmRNA(メッセンジャー・リボ核酸)という人工的な物質を使う新しいタイプのワクチンだ。その手法を生み出したのが、ハンガリー生まれの女性科学者、カリコー・カタリンである。ハンガリー語は欧州で唯一、名前の並びが日本と同じ姓・名の順なのでカリコーが姓だ。
現在66歳のカリコーは40年前からRNAの研究に携わってきたが、その研究者人生は決して恵まれたものではなかった。だが今回の新型コロナ・ワクチンの開発で、mRNAはにわかに「ノーベル賞級の研究成果」と言われるようになった。
彼女が40年間、諦めずにRNAの研究を続けた結果として、新型コロナのワクチンは従来より3年近く早く開発することができた。「この技術はいつか必ず役に立つ」という彼女の信念が人類を救ったとも言える。
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source : 文藝春秋 2021年5月号