生存率6倍の「希望の薬」がついに実用化
がんにウイルスを注射することで、がん細胞だけを破壊――。そんな画期的なウイルス製剤「G47Δ(デルタ)」(製品名「デリタクト注」)が2021年6月、悪性神経膠腫(こうしゅ)(脳腫瘍)に対する治療薬として厚生労働省の承認を受け、同年11月から発売されました。私たち東大医科学研究所の研究チームが開発したものです。
今年7月には、治験結果が医学誌「ネイチャー・メディシン」に掲載され、世界中の患者や医療機関などから問い合わせが殺到しています。というのも、これまでの常識では考えられない成果が出たからです。
治験の対象は、悪性神経膠腫でもとりわけ悪性度の高い「膠芽腫(こうがしゅ)」の再発・残存患者。このがんは再発後の有効な治療法がなく、再発後の平均余命は3〜9ヶ月程度でした。
ところがこの治験では、治療開始後の1年生存率が84.2%。従来の標準治療では14%程度ですので、約6倍になったのです。さらに被験者19人のうち3人は、治療開始から4〜6年ほど経つ今も生きていらっしゃいます。先行した臨床試験の被験者には、既に12年半生きていらっしゃる方もいる。
治験を受けた患者さんの中には、日常生活を取り戻しただけでなく、仕事にも復帰した50代の会社社長もいます。治療開始から5年半が経ち、その間に成人されたお子さんたちと一緒にお酒を楽しんでいるという近況を聞くと、この薬を開発できてよかったと嬉しくなります。
実は、G47Δが効果を発揮するのは脳腫瘍だけではありません。あらゆる固形がんに同じメカニズムで作用することから、今後、様々ながんに適応拡大される可能性があります。実際に前立腺がんなどの臨床試験が進んでいるところです。
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source : 文藝春秋 2022年12月号