日本を動かすエリートたちの街、東京・霞が関。日々、官公庁を取材する記者たちが官僚の人事情報をどこよりも早くお届けする。
★コロナ失政、再び
岸田文雄首相率いる首相官邸の官僚チームが、新型コロナの対応をきっかけに綻びを見せ始めた。秘書官人事で厚生労働省出身者を外したことで、3回目のワクチン接種や病床確保で、後手後手の対応となっている。
官邸でコロナ対策を仕切るのは財務省出身の宇波弘貴秘書官(平成元年入省)。社会保障の主計畑が長く、厚労省人脈が豊富なため、官邸官僚を取り仕切る嶋田隆政務秘書官(昭和57年、旧通産省)も「宇波君なら大丈夫」とみていた。だが厚労省とのパイプといっても年金など予算が絡む部局が主だった。
感染者の急増で厚労省との折衝がやはり必要となり、宇波氏は吉田学厚労次官(59年、旧厚生省)とやりとりすることに。菅義偉内閣時代も厚労省との折衝で苦労していたが、岸田政権の基本方針は「菅時代のやり方を引き継がない」。そのため前政権の経験を活かしきれていない。
接種時期の前倒しで迷走したワクチン接種でも同じ轍を踏んだ。やはり菅政権時代に河野太郎前担当相がつくったワクチンチームを解散し、執務場所も移した結果が接種遅れにつながった。慌ててチームを再編成し、森昌文元国土交通事務次官(56年、旧建設省)を首相補佐官に起用し、立て直しをはかるものの、混乱は続いた。
森氏を補佐官に据えたのは和泉洋人元首相補佐官(51年、旧建設省)の成功体験がある。和泉氏と同じ旧建設省出身なら業務が円滑に進むとの期待があった。もっとも、菅官房長官時代から広範な業務を扱ってきた和泉氏とは異なり、森氏は主に道路行政を担っていた。
ワクチンチームの再編、旧建設省出身の補佐官と、結局は菅時代のやり方に逆戻り。100日のハネムーン期間が終わるとともに、官邸官僚の真価が問われる局面に入った。
岸田氏
★ポスト争奪戦の予感
経済安全保障法案の法制準備室長だった藤井敏彦氏(昭和62年、旧通産省)がカネとオンナの醜聞で失脚した。
法案はようやく閣議決定したばかりなのに、エース格の藤井氏が降板する事態に、秋葉剛男国家安全保障局長(57年、外務省)の機嫌もよくない。
後任の室長は財務省出身の泉恒有氏(平成4年)。室次長から昇格し、実務の責任を引き継ぐ。泉氏は運輸官僚から政界入りした泉信也元参院議員の次男。それだけに「政治とは一線を画したいという気持ちを持っている」(財務省幹部)という。行政改革への対応に駆り出されたことも多く、「正義感が強く、しっかり筋を通すタイプ」(局長経験者)と信頼されている。ニューヨークに駐在した経験もあり、最近まで関税局で経済安保と関わりが深い外為法を所管していた。
藤井氏は民間企業の技術管理やサイバー攻撃に詳しく、米商務省などにも人脈を広げていた。「口八丁、手八丁の典型的な経産官僚」(内閣府幹部)だったが、泉氏はじっくり考えてから行動する堅実派だ。
その泉氏を支えるのは安全保障局経済班長の高村泰夫内閣審議官(2年、旧大蔵省)。アフリカ開発銀行、世界銀行、アジア開銀で勤務し、農水担当の主計官を経験した。「厳しい局面でも冷静さを失わない。いつも笑顔で事務所に通ってくるから、つい話を聞いてしまう」(自民党農林族)とソフトな人柄で周囲をひき付ける。局長の秋葉氏も大局観がある高村氏を信頼しているという。
法制準備室は、外務、経産、防衛省、警察庁などとの寄り合い所帯であり、法案可決までの道のりは平坦ではない。
新法が成立すれば、それを執行する組織が内閣府に生まれる。トップには藤井氏が横滑りするとみられていたが、外務省や警察庁も関心を持っており、ポスト争奪戦が起きるかもしれない。
★副長官の存在感
官邸内で栗生俊一官房副長官(昭和56年、警察庁)の株が急上昇している。
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source : 文藝春秋 2022年4月号