★官邸四人組の弱点
岸田政権発足から100日が過ぎ、首相官邸では霞が関OBの影響力が鮮明になってきた。今年になって発令された首相補佐官人事は、永田町・霞が関の耳目をひいた。森昌文元国土交通事務次官(昭和56年、旧建設省入省)。
次官経験者が官邸中枢に入るのは森氏で4人目となる。嶋田隆政務秘書官(57年、旧通産省)、栗生俊一官房副長官(56年、警察庁)、秋葉剛男国家安全保障局長(57年、外務省)が形成する「OB三人組」に、内政の政策調整役として森氏が加わった。
第2次安倍、菅政権では、和泉洋人氏(51年、旧建設省)が森氏の役割を担っていた。コロナ対策のワクチン接種でも剛腕ぶりをみせた和泉氏の穴がようやく埋まったといえる。
ただ実のところ、「三人組」と同時期に事務次官だったよしみで、起用された側面が強い。菅前内閣の年次が若い秘書官たちと異なり、次官経験者が官邸をコントロールすることで、「安定感がある」と見る向きも少なくない
とはいえ外務、経産、国交、警察と、4つの役所のトップ経験者が官邸にいる状態は両刃の剣でもある。たしかに実務的な部分では手堅いが、フットワークは必ずしも軽いとはいえない。また後輩の官僚たちが先輩に遠慮する局面も今後出てくるはずだ。
さらにこの4人は誰も岸田文雄首相と濃い人間関係を築いていない。あくまで役人OBの立場で接するため、安倍内閣の今井尚哉政務秘書官(57年、旧通産省)のような政治的動きが乏しい。政治的危機が訪れたとき、官邸の真価が問われることになる。
岸田首相
★露骨なサボタージュ
新型コロナのオミクロン株が猛威を振るう中、官邸官僚の雰囲気が慌ただしくなっている。昨年11月にコロナ対策の「全体像」を策定したものの、いざ第6波が到来するや、その脆さが露呈しているためだ。
最大の失策が検査能力の不足だ。「全体像」では感染拡大した時に、自治体で無料検査が誰でも受けられるようにし、社会経済活動との両立を図ると華々しく謳った。しかし蓋を開けてみれば、キットが行き渡らず、濃厚接触者への検査すら回らない有様だ。
これは厚生労働省がメーカーへの目配りを怠った結果にほかならず、吉田学次官(昭和59年、旧厚生省)以下、相変わらず詰めの甘い厚労省は責めを免れない。
官邸の急所は、現場の実態に明るいスタッフを欠くことだろう。コロナ対策に携わる宇波弘貴秘書官(平成元年、旧大蔵省)は医薬品メーカーや卸などの事情にも通じるが、力不足の感が否めない。また報道各社のガス抜き対策はお手のものといった荒井勝喜秘書官(3年、旧通産省)もこの分野に足場がない。
経済官庁幹部は「ぐだぐだのコロナ対策でも政権が延命できているのはひとえに重症者が少ないためだ」と語る。
おぼつかないのはワクチン接種も同様。福島靖正医務技監(昭和59年、旧厚生省)や迫井正深内閣官房新型コロナ対策室長(平成4年)ら医系技官の慎重姿勢を振り切り、3回目接種の前倒しを命じた岸田首相だが、現状はかけ声倒れだ。
菅政権では、首相の「直轄地」だった総務省が自治体に強権発動しスピード接種をお膳立てしたが、今回、総務省は政権を積極的に支える様子は見られず、「露骨なサボタージュだ」(政府関係者)との指摘の声も聞こえている。
菅前首相
★経済安保の強力布陣
1月21日、岸田首相とバイデン米大統領はテレビ会議による首脳会談を開き、経済安全保障で協力するための閣僚会議「2プラス2」を新設することで合意した。中国などへの技術流出を防ぐためで、日本側は外相と経産相、米側は国務長官と商務長官が参加する。
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source : 文藝春秋 2022年3月号