「一国平和主義」から脱却し、「日米同盟」は本来のかたちに

進展するアメリカ以外との安保連携

千々和 泰明 防衛研究所主任研究官

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 岸田文雄首相とバイデン米大統領のあいだでは最後となる日米首脳会談が2024年9月に米国ウィルミントンで開催された。日本は近年、米国以外の国ぐにとの安全保障上の協力を進展させてきたが、岸田=バイデン時代にこうした状況が加速したといえる。

 アジア太平洋地域において米国は、日本以外にも韓国やフィリピンといった国ぐにと同盟関係にあるが、これらの「日本と直接同盟関係にはないが米国と安全保障上の関係を持つ国」と、日本との安全保障協力が進展している。

バイデン大統領(左)と岸田文雄首相(2023年のG7サミットにて。いずれも当時の肩書き) ©JMPA

 2023年8月、岸田首相、バイデン大統領、そして韓国の尹錫悦大統領がキャンプ・デービッドで会談し、日米韓の連携強化で一致した。それ以前、日韓関係は歴史問題などでこじれていた。米韓同盟についてもトランプ政権(2017~2021年)が在韓米軍撤退をちらつかせるなど、揺らぎが見られた。そうした経緯を踏まえても、朝鮮戦争休戦協定から70年の節目に日米韓三か国が将来に続く結束を示した意義は大きい。

 それだけではない。2024年4月にワシントンDCでおこなわれた日米首脳会談では日米間での指揮・統制の枠組み向上などが合意されたが、この折にフィリピンのマルコス大統領を加えた三国間の首脳会談が開催された。日米比三国首脳会談が開催されたのはこれが初めてである。続いて同年7月、日比二国間で、自衛隊とフィリピン軍の共同訓練を容易にする「円滑化協定」(RAA)も署名されている。

 背景にあるのは、中国の覇権主義的行動や、北朝鮮によるミサイル発射の威嚇など、東アジアの安全保障環境の不安定化だ。これらの動きに加えて、ウクライナへの侵略を継続しているロシアのプーチン大統領が6月に北朝鮮を訪問し、金正恩総書記とのあいだで両国間の相互軍事支援を定めた露朝条約に署名した。冷戦時代の旧東側陣営が再結成されているようにも見える動向である。日本が、日米同盟を基軸としつつ、直接の同盟国ではないけれども米国の同盟国などとの安全保障上の協力を進めているのも、不測の事態を抑止し、日本を含む地域の平和を維持するためである。

根が深い「巻き込まれ」論

 一方、1951年以来の日米同盟の歴史を振り返ると、日本が米国以外の国や地域と安全保障関係を構築していくことに懸念を示す向きがあった。「日本が自国と関係のない外国の戦争に巻き込まれてしまう」というわけだ。こうしたいわゆる「巻き込まれ」論の根は深い。たとえば、1959年の砂川事件第一審判決(裁判長伊達秋雄の名前をとって「伊達判決」といわれる)というものがある。砂川事件とは、東京都砂川町(現・立川市)の在日米軍基地拡張に反対するデモ隊の一部が逮捕された事件であり、裁判では在日米軍の合憲性が争われることになった。これに対し伊達判決は、日米安全保障条約にもとづく在日米軍の駐留を憲法違反とした。この判決はのちに最高裁判所で破棄されるものの、裁判所が在日米軍駐留を違憲とする判断を示した衝撃は大きかった。

 なぜ伊達判決が在日米軍駐留を違憲と断じたかというと、日米安保条約にいわゆる「極東条項」が存在するからだという。1951年に結ばれた日米安保条約は、在日米軍を、「極東」の平和と安全の維持に寄与するために使用することができると規定していた。この規定は、1960年に改定されたあとの同条約にもほぼそのまま引き継がれている。極東とは、「大体においてフィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域であって、韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれる」とされている(1960年の日本政府統一見解。このうち「中華民国の支配下にある地域」とは、現在では台湾と読み替えられている)。伊達判決は、この極東条項により、日本が「自国と直接関係のない武力紛争の渦中に巻き込まれ」る危険がある、としたのだった。

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