ラクエル・ウェルチ
Studiocanal Films Ltd/Mary Evans/共同通信イメージズ
『ベルファスト』(2021)を見ていたら、『恐竜100万年』(1966)の映像が眼に飛び込んできた。1969年のベルファストを黒白で描いた映画なのだが、引用部分はカラーに変わる。
映画館でそれを見た瞬間、主人公の少年が頬をゆるめる。観客も束の間ほっと息をつく。当時のベルファストでは、プロテスタント住民とカトリック住民との摩擦が激化しはじめていた。
そうか、『恐竜100万年』はあの時代の映画だったか。私も60年代に引き戻された。あれはハマー・プロが製作した英国映画で、スペインのカナリア諸島でロケ撮影が敢行されたのだった。初めて見たときは、一体どこの荒地で撮ったのだろうと首をかしげたものだ。
このとき脚光を浴びたのが、ラクエル・ウェルチだった。
人類が明瞭な言語を持っていなかった穴居時代、という設定なので、この映画の台詞数は極端に少ない。ロアナという女に扮するウェルチもほとんど喋らない。全篇を通して鹿革のビキニ姿で登場し、巨大な恐竜の脅威を逃れ、愛を求めて岩山を駆けまわる。
では、好色な男性観客の劣情を刺激するのが目的のキワモノかといえば、そうではない。むしろ正反対だ。
なにしろウェルチの立ち姿が、彫像のように立派だ。突き出た胸にも、張った頬骨にも、くびれた腰にも妙な捏造感がなく、自然が造形した記念碑に見える。明朗闊達で、堂々としている。
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source : 文藝春秋 2022年5月号