娘がいなければ競技の場に戻ってくることもなかった。3年ぶりのシーズンに挑む胸中とは──
(取材・構成・青嶋ひろの)
昨年秋から今年の春にかけてしばらくはアイスショーにも出ず、もちろん試合にも出ず……。スケート界から一旦、大きく距離を置くという経験をしました。
その時とても嬉しかったのは、まわりの人たちが自分のことをどれだけ思っていてくれるかが良く分かったこと。家族や関係者の方だけでなく、「試合で見られないと、美姫ちゃんの存在って大きかったんだなって、よく分かる」なんて、フェイスブックでつぶやいてくれる人もいました。それはやっぱり嬉しかったですね。二年も試合に出ていない私なんかをずっと待ってくれる人もいるんだな……って。そんな声を聞くと、結果がどうなるのか、オリンピックに行けるかどうかはともかく、もう一度試合で頑張ってみようかな、って素直に思えたんです。
そんな思いがあったから、久しぶりのアイスショー、「アート・オン・アイス」(六月初旬、復帰後初のショー)でジャンプを入れられなかったときは、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。出産を終えて、五月に練習は始めたけれど、軽い故障をして腰が痛かったこともあり、なかなかジャンプが跳べなかった。
あの頃は、ショーの練習を見に来る関係者の方の視線がすごく気になりました。「美姫、何にも跳べないじゃん!」「何やってんの、ダメじゃない?」……そんな声が聞こえたわけではないけれど(笑)、九カ月ぶりのショー、三年ぶりの競技シーズンとなると、みんなの視線が突き刺さってくる気がして心細かったんです。ちゃんとスケートをしなくちゃ、見た目も太ってる、って言われないようにしなくちゃ、っていろいろなことに神経を使ってしまいました。
半年ぶりにたくさんのお客さんの前で滑ることも……恐かったです。まだおなかも胸もぽよぽよだったし、体型を絞ることも大変な時期。会場に来ている方、みんながみんな、自分を応援してくれるわけじゃないことも、分かっています。私のファンではない人から見たら、「なんで安藤はジャンプを入れないんだ?」という思いを抱くのが当然でしょうし、そんな声はいやでも耳に入ります。
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source : 文藝春秋 2013年10月号