改正入管法が成立して、外国人労働者を受け入れる新たな枠組がスタートしたのは私も知っている。だがこれが成立したときに感じたのは、この法は、うまく行けば日本人の活力強化につながるが、まずく行くと現内閣が後代に残す最大の悪法になりかねない、ということだった。
と言って、外国人労働者の受け入れは、今の日本にとってはもはや不可欠。また、始めから完璧な政策などは存在しない。だから、スタートした後も頻繁に見直し、二年どころか一年に一度は見直し、しかも閣僚級の政治家をトップにしての委員会を常設して監視に当り、この法の施行中に出てきた不都合はこまめに修正していくしかない、と考えていたのである。
その私の眼に止まったのが、『月刊Hanada』の七月号に掲載されていた、楊逸(ヤンイー)女史の一文。「総力大特集 令和日本の勝算」の中の一文だが、内容は、現法のままだと「勝算」どころか「敗算」になると、警鐘を鳴らした論文である。
楊逸女史とは、ハルピンに生れ、二十三歳の年に来日し、お茶の水女子大を卒業し、今は日大芸術学部の教授。私が彼女を知ったのは、日本語を母語としない作家として始めて芥川賞を受賞した『時が滲む朝』を読んだときだった。
この人が、改正入管法は考え直すべき、と声をあげたのである。そして、長年外国に住んでいるという点では似ている私も、この彼女の考えには三分の二までにしろ賛成だ。
まず、五年経ったら帰国してもらうのだから移民ではない、と強調する首相の言葉が、何よりも先に問題視されるだろう。五年の間家族にも会えないのは人権無視だとして。その間に帰国して家族と過ごすことまでは不可、としてないのだからと言うかもしれないが、そのようなお金があれば貯金するだろうから、実際上は「不可」なのである。
そして楊逸さんは言う。八〇年代は「研修生」、九〇年代は「技能実習生」、今度は「特定技能一号」と名称は変わっても、抜本的な政策からは日本は常に逃げてきた、と。また、中国語新聞の記者として働らいていた頃の、中国人の研修生の例を引く。
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source : 文藝春秋 2019年9月号