悪法と善法の別れ道

日本人へ 第195回

塩野 七生 作家・在イタリア
ニュース 社会

 改正入管法が成立して、外国人労働者を受け入れる新たな枠組がスタートしたのは私も知っている。だがこれが成立したときに感じたのは、この法は、うまく行けば日本人の活力強化につながるが、まずく行くと現内閣が後代に残す最大の悪法になりかねない、ということだった。

 と言って、外国人労働者の受け入れは、今の日本にとってはもはや不可欠。また、始めから完璧な政策などは存在しない。だから、スタートした後も頻繁に見直し、二年どころか一年に一度は見直し、しかも閣僚級の政治家をトップにしての委員会を常設して監視に当り、この法の施行中に出てきた不都合はこまめに修正していくしかない、と考えていたのである。

 その私の眼に止まったのが、『月刊Hanada』の七月号に掲載されていた、楊逸(ヤンイー)女史の一文。「総力大特集 令和日本の勝算」の中の一文だが、内容は、現法のままだと「勝算」どころか「敗算」になると、警鐘を鳴らした論文である。

 楊逸女史とは、ハルピンに生れ、二十三歳の年に来日し、お茶の水女子大を卒業し、今は日大芸術学部の教授。私が彼女を知ったのは、日本語を母語としない作家として始めて芥川賞を受賞した『時が滲む朝』を読んだときだった。

 この人が、改正入管法は考え直すべき、と声をあげたのである。そして、長年外国に住んでいるという点では似ている私も、この彼女の考えには三分の二までにしろ賛成だ。

 まず、五年経ったら帰国してもらうのだから移民ではない、と強調する首相の言葉が、何よりも先に問題視されるだろう。五年の間家族にも会えないのは人権無視だとして。その間に帰国して家族と過ごすことまでは不可、としてないのだからと言うかもしれないが、そのようなお金があれば貯金するだろうから、実際上は「不可」なのである。

 そして楊逸さんは言う。八〇年代は「研修生」、九〇年代は「技能実習生」、今度は「特定技能一号」と名称は変わっても、抜本的な政策からは日本は常に逃げてきた、と。また、中国語新聞の記者として働らいていた頃の、中国人の研修生の例を引く。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2019年9月号

genre : ニュース 社会