夏のローマで思うこと

日本人へ 第194回

塩野 七生 作家・在イタリア
ライフスタイル

 7月7日は私の誕生日。以前は誕生日になると、その年から1937を引いて、「あら、ヒドイ!」と言った後は忘れていたのだが、この頃ではそうもいかなくなった。

 平地に建てられた都市ではないローマでは、高地と低地がやたらと多い。スペイン広場からも、スペイン階段を登って上に行く。そのスペイン階段も昔は一気に上まで登り、降りるときも下も見ずにさっさと降りられたものだった。それが今では、登るときは途中で一休みし、下りともなると一段ずつ注意しながら降りる有様。先日テレビで、英国訪問中のトランプが階段を注意しながら降りているのを見て、ちょっぴり嬉しくなったのだった。

 しかし、年を重ねるのも悪いことばかりではない。他人にどう思われるかは気にしなくなるのだから、素人っぽい疑問も平然と口にできることになる。それで今回は、シロウトもいいところの疑問を列挙することにしよう。

 その第一。現在の英国の迷走ぶりを見ていて、高等教育さえ受けていれば良いとはかぎらないと痛感した。現イギリスの政治家の多くはオックスフォードの出で、しかもその中でも「PPE」の専攻者がほとんどだという。「PPE」とは、哲学(Philosophy)、政治学(Politics)、経済学(Economics)の略で、他の有名大学でもまねし始めているようだが、あくまでもオックスフォードが元祖。元祖だけに、オックスフォードのPPEの学位を得るのは特別で、「Modern Greats」の取得者とされているらしい。PPEは政治家にかぎらず、マスコミの世界にも及んでいるとのこと。

 つまり、PPEとはエリートの代名詞でもあったのだ。こうも深遠なる学を極わめた人を多くもっていながら、なぜああも醜悪な迷走ぶりをさらすのか、が私の疑問。

 そして、これに関連するのが次の疑問で、それは、米国の最優秀大学とされているプリンストンやハーヴァードやイェールで学んだ「ベスト・アンド・ブライテスト」なのに、第2次大戦以降のアメリカは、対外関係となると失敗ばかりしているのはなぜか、である。

 哲学、政治学、経済学を極わめるイギリスのエリートに対して、アメリカのエリートはこれらの大学で、何をどう学んでいるのであろうか。

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source : 文藝春秋 2019年8月号

genre : ライフスタイル