船底のようなる雲が伸びてきて黒のなかより雷(らい)を放てり
夏の暮れガスの青火のかたわらに豆腐を切りて豆腐を殖やす
夕日射し黄金(おうごん)となる橋を行くだれもだれもが足だけになり
人厭(いと)うこころ隠して会は過ぐ葡萄の氷を買いて帰らむ
ゆうぐれは空より来るか地上から湧くのか さやと赤蜻蛉(あかあきつ)飛ぶ
どの人もまぼろしの線引きおらむ三つの星が夏の夜に浮く
死者のマイナンバー残り生者より殖えゆく未来 夕雲が散る
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source : 文藝春秋 2023年9月号