駐中国大使、かく戦えり

短期集中連載 第1回

垂 秀夫 前駐中国大使・立命館大学教授

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時には習近平をアテンドし、時には「スパイ」と警戒され、そして時には外交部へ抗議に怒鳴り込む……。「中国が最も恐れる男」と呼ばれた前大使による第一級の回顧録(聞き手 城山英巳・北海道大学大学院教授)

「これまで中国は礼儀の国だと思っていましたが、私の理解は正しくないということがよく分かりました」

 2021年12月1日夜、私は北京中心部にある中国外交部1階の応接室で、女性報道官であり、「戦狼外交官」として著名な華春瑩部長助理(次官補)と対面し、冒頭の言葉を投げかけました。

 発端は、同日に台湾で開かれたシンポジウムでした。オンライン参加した安倍晋三元総理が「台湾有事は日本有事」と発言。日本が台湾問題に関与を強めることを警戒した中国側は、これに猛反発したのです。

 私はそれ以前から、別の案件でカウンターパートであるアジア担当の呉江浩部長助理(現・駐日大使)に、面会を求めていました。ただ、中国側は引き延ばすばかりで、一向に時間を作ろうとしなかった。

 ところが、安倍元総理の発言が伝わると、「すぐ外交部に来てほしい」と連絡してきたのです。失礼な話ですから、当初、部下には「放っておけ」と伝えたのですが、外交部は「来ないなら、今後、垂大使とのアポイントメントは全て拒否する」と脅してきた。仕方なく面会は了承しましたが、すぐさま駆けつけるのは癪に障るので、夜の会食が終わった後、あえて1時間ほどしてから、外交部を訪ねたのです。

 出張中だった呉氏の代理として出てきたのが、華氏でした。初対面でしたが、私が席に着くなり、「厳正に申し入れを行いたい」と、長文の抗議文を読み始めた。私は30分ほど黙って耳を傾けていましたが、彼女が読み終えると、こう切り出しました。

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source : 文藝春秋 2024年2月号

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